テレワークを導入する前に理解すべき労務的リスクと対策
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
労務に関する最新のニュース、気になる法改正などを取り上げて、社会保険労務士の寺島さんに話をお聞きするコーナーです。今回は最近増えてきている、テレワーク・在宅勤務について労務的な視点から話をしてもらっています。
寺島戦略社会保険労務士事務所
代表 / 社会保険労務士 寺島 有紀一橋大学商学部を卒業、新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
■ 寺島戦略社会保険労務士事務所 公式サイト
株式会社BEC
代表取締役 高谷 元悠2013年に有限責任あずさ監査法人に入社。IPO支援、内部統制構築支援、M&A、上場企業の監査を担当。2014年に株式会社BECを創業し、代表取締役に就任。クラウド人事労務管理サービス「Gozal」を開発。
働き方改革の一つテレワークの定義とは?
高谷
働き方改革が話題になっています。より多様で柔軟な働き方を実現させようと奮闘する企業のニュースをよく目にするようになりました。テレワークもその一つと言えます。
寺島
テレワークは、働く時間や場所を柔軟にできるのが特徴です。厚生労働省では2018年2月に雇用型テレワークについて、長時間労働を招かないよう労働時間管理の仕方などを整理し、在宅勤務以外の形態(モバイル・サテライト)にも対応したテレワークガイドラインを刷新しています。
※従来の「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を改定して策定されたもの
高谷
厚生労働省でも推進と情報整理を進めているのですね。そもそもテレワークはどういう定義なのでしょうか。
寺島
テレワークは労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務と定義されていますが、
業務を行う場所に応じて①在宅勤務、②サテライトオフィス勤務、③モバイル勤務などがあります。
在宅勤務はそのまま自宅で仕事をすること、サテライトオフィス勤務はサテライトオフィスで仕事をすること、モバイル勤務は営業回りしながら作業を進めるようなあり方を言います。
テレワーク導入時の労務リスク
高谷
なるほど。それではテレワークの導入で気を付けなければならないことはどのようなことでしょうか?
寺島
まず、基本的なことですがテレワークを行う労働者にも労働基準法、安全衛生法、労働者災害補償保険法等は適用されます。なので、在宅勤務中に転んでけがをしたというような場合でも業務起因性などがあれば労災認定されます。
顧問先でも在宅勤務を導入しているところは多いですし、ベンチャー企業などは採用戦略などもあいまって柔軟な制度導入に意欲的なところが多いです。とはいえ、テレワークは「労働時間の管理が難しい」といった声や、情報管理が心配といった声も聞かれます。
事業場外みなし労働時間制の適用について
高谷
事業場外みなし労働時間制を適用することはできるのでしょうか?
※事業場外みなし労働時間制とは、労働者が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です。
寺島
テレワークにより勤務する労働者に事業場外みなし労働時間制を使えるかというのは、厚生労働省により発表されたガイドラインに、
①PC等により使用者の指示に即応する義務がない状態かつ②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないという2要件を満たしていれば適用可能であると明記されています。
個人的な考えでは、PC等で上司のかたがチャット等でなにか指示をしたり、業務命令を行うということは通常ありえることから、現実には事業場外みなし労働時間制を適用するというのは難しいように感じます。
在宅勤務者には指示も連絡も即時でつかないというのはあまり現実的ではありません。在宅勤務者には通常のオフィス勤務者と同様通常の時間管理をしていただくほうがすっきりしているかもしれません。
自宅の電気代負担・情報漏洩リスクについて
高谷
適用自体は不可能ではないが、現実的には稀なケースに限定されそうということですね。それでは、在宅勤務制度の導入時に注意すべきことはありますか?
寺島
在宅勤務の導入で気を付けるべき点としては、これは個人的にも身に覚えがありますが、どうしても自宅でやっていると夕飯を食べた後に仕事を再開してみたり、週末にPCを持ち帰っているので休日にPCを開いて見たり・・・。「業務の終わり」の区別がつけにくいことから長時間労働になってしまうということが挙げられます。
また自宅にインターネットが開通していなかった場合には、会社が費用負担して在宅勤務の環境を整備するのか、負担額の上限はいくらなのかなど、ルールを決めておかなければ、無駄な論争を招く恐れがあります。また電気代を誰が負担するのかなども揉めるリスクがあるので、しっかりとルールを定めておくことが重要です。
あとは、カフェなどで仕事をすることを許可する場合、重要な資料・情報を扱うと、周りの席にいる方に情報漏洩してしまうリスクもあります。そのリスクに備えた、教育・業務内容の制限を行えるようにしておくと良いと思います。
VDTガイドラインという安全衛生を考慮したガイドラインがあるのですが、その内容に沿った環境が自宅などにあることを、本人から誓約書を提出してもらうことも対策として挙げられます。劣悪な環境で働かせることは企業側の落ち度であり、それは在宅勤務であっても関係ありません。
在宅勤務時の長時間労働を抑止する仕組み
高谷
なるほど。幾つか対策すべき点はあるということですね。
寺島
そうですね。厚生労働省のテレワークガイドラインにも記載がありますが、長時間労働を防止する対策を図ることが使用者には求められるという旨の記載もあります。
たとえば、①メール送付の抑制(役職者等から時間外、休日深夜におけるメール送付の自粛)②システムへのアクセス制限③テレワークを行う際の時間外、休日、深夜労働の原則禁止等
が挙げられています。
この中でも、とくに効果的だと感じるのは、「時間外、休日、深夜労働の原則禁止」だと考えています。少なくとも、時間外をする際には事前にメール等で許可を取ったうえで行うことが必要だと考えています。
長時間労働の抑制という意味でもそうですが、在宅勤務だと仕事をしているのか他のことをしているのかというのが見えにくいのは事実ですので、だらだらと時間外労働をされた場合に会社としてはコスト面でも気になるというお話をよく伺います。
テレワーク・在宅勤務制度の導入における基本的な認識
高谷
ありがとうございます。その他、意識すべきことなどありますか?
寺島
在宅勤務は、労働者自身の自律も必要な大人な制度という認識が必要です。対象者は入社から一定年数が経っている者とするとか、ある程度自主的に仕事ができる方、またその仕事の成果が目に見えやすい業務の方のほうが相性は良いように感じます。
入社3日目の人に許可するのかどうかも会社によって考え方は分かれるところだと思いますし、成果が明確である仕事に限るなどの方法を採用する企業もありますね。
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