会社の経営理念が詰まった社訓はどうやって決めるのか?

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

昨今、政府が働き方改革を進めていて企業も対応が求められています。そのため従業員の働き方を変えていく必要はありますが、企業にはそれぞれ経営者が決めた方針があり、それをもとに従業員は働いています。その経営者の方針が会社の社訓となっていますよね。ではその社訓はどういう風に決められているのか、「社是」と「社訓」と「経営理念」はどう違うのか、具体的に日本の企業の社訓はどんなものが多いのかを解説していきます。

企業運営上の経営理念の重要性

 経営理念の有無と会社の売上高は正比例の関係にあると言われています。会社としての経営理念を決め社是、社訓により全社に周知徹底させることは、業績向上に貢献する可能性があります。経営理念を社是や社訓に効果的に盛り込むことは、企業経営において重要なことと言えます。

社是と社訓と経営理念の違いとは?

社是、社訓、経営理念のそれぞれの言葉を辞書で引くと、以下のような言葉が出てきます。

  • 「社是」:会社や結社の経営方針・主張。また、それを表す言葉(「デジタル大辞泉」)
  • 「社訓」:その会社で、従業員が守るべき基本的な指針として定めてあること。(「デジタル大辞泉」)
  • 「経営理念」:企業の創設者および経営者が,その企業経営にもっている基本的考え方。(「世界大百科事典 第2版」)

 社是とは、会社が是とするもの、つまり全体としての経営方針であり、社訓は、会社でその従業員が守らなければならない指針のようなものです。経営理念は、企業の経営者側の企業経営に対する考え方や方向性ですから、3つはそれぞれ少しずつ異なるものであると言えます。経営理念を定めて社是や社訓に反映させ、全従業員がそれを実際に実行することによって、初めて経営理念を実現することができます。

日本企業の社訓の具体例

 では、日本企業はどんな社訓を定めているのでしょうか。具体例を見ていきましょう。

文章形式

「~しなさい」「~すること」などの文章で表され、従業員の守るべき指針という社訓の基本的な形式に則っており、分かりやすい形式と言えます。全従業員に企業理念を理解してもらい、それに則って行動してもらうためには、経営理念をかみ砕いて具体的な行動まで説明したものにする必要があります。そのため、分かり易く的確な文章にする必要があります。

 ヤマトホールディングス株式会社

一、ヤマトは我なり
一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし
一、思想を堅実に礼節を重んずべし

 キユーピー株式会社

一、道義を重んずること
一、創意工夫に努めること
一、親を大切にすること

 株式会社熊谷組

・社業の発展を欲せば先ず信用の昂揚に努められたし
・工事施工に当たりては親切を旨とし得意先の不安の除去に努められたし
・相互に共存共栄を基とし一致協力して業を励み成績向上に努められたし

 株式会社ベストライフ

一、私達は心を大切にします
一、私達は高齢者を尊敬します
一、私達は仕事に誇りを持っています

 日華化学株式会社

一、我れ誠実にそむくこと無かりしか
一、我れ勤勉に欠くこと無かりしか
一、我れ信用をそこなうこと無かりしか

名詞形式

 文章形式でなく、語尾が名詞になっている形式です。短いものにすれば非常に覚えやすい形式です。経営理念につながるような名詞を設定すれば、経営理念をよりダイレクトに伝えやすくなります。また、社訓に則った具体的な行動指針について、従業員一人ひとりに考えさせる効果があります。簡潔なので、その真の意味を具体的に伝える場が何らかの形で必要になるでしょう。

 TDK株式会社

夢・勇気・信頼

 ピーアークホールディングス株式会社

「創造」へのエナジー
「挑戦」するスピリット
「熱意」のパワー

 日本発条株式会社

躍進のニッパツ
根性のニッパツ
みんなのニッパツ

 株式会社ソケッツ

Love × Communication = Peace

名詞+説明文形式

 社訓を表す一言の名詞を掲げた上で、その内容を説明した形式です。どうしても長くなりがちなので、全文を覚えるのは大変ですが、名詞の部分を詳しく説明してあるので、より具体的に経営理念を伝えやすくなります。

 アルプス電気株式会社

親和と質実
一、我々は親和を第一とし質実剛健の気風を尚ぶ。
社会奉仕
一、我々は品位ある製品を作り常に社会に奉仕することを忘れない。
創意工夫
一、我々は創意工夫を重んじ技術の開拓と業務の熟達に努力する。
信用の蓄積
一、我々は強い責任感を以って職責を全うし信用の蓄積を計る。
健康と家庭
一、我々は常に健康に留意し健全なる家庭を築き社業に全力を尽くす。

 加賀産業株式会社

・高い問題意識
現状維持は後退である。現状打破の精神を常に持つ。
・常に創意工夫
できない理由を述べる前に、できる方法を考え尽くす。
・速やかな実行
すぐやる、必ずやる、出来るまでやる。
・不断なる成長
社員の成長なくして会社の発展なし。自助努力を怠らない。
・報連相の徹底
対応の遅れが最大のリスク。迅速に報告・連絡・相談。

社訓を朝礼で唱和させるのは効果があるのか?

 社訓を毎朝の朝礼の時間に全員で唱和させている会社も多いかと思います。しかし、社訓は従業員に覚えてもらうことだけでなく、それを実際に行動に移してもらうことが一番の目的です。毎朝ルーティンワークとしてただ口に出すだけでは、頭で覚えることはできますが、本当の効果はないと言えます。むしろ強制的に唱和させることで、社訓に対し反発心すら感じてしまうかもしれません。朝礼で唱和させるという形式的なことではなく、社訓に基づいた業務目標を一人ひとりに考えさせる、それに基づいて人事評価を行うなどしたほうが、より社訓を具体的な行動に移してもらうことができるでしょう。

まとめ

 会社の業績向上に、経営理念の有無は関係しています。経営理念を全従業員に周知させるためにも、社是や社訓の存在はとても重要です。社是とは、会社の基本的な方針のこと、社訓とは、従業員が守るべき基本的な指針のことであり、経営理念とは、経営者が持っている企業経営への具体的な考え方(経営哲学)のことです。

社是や社訓に経営理念を効果的に盛り込み、全従業員がそれを自分自身で実行することにより、初めて経営理念は実現可能となります。社訓には様々な形式があり、「~しなさい」等の文章形式のものや、名詞で表現したもの、名詞に説明文を加えたものなどがあります。社訓を朝礼で唱和させるのは、社訓を頭で覚えるのには効果的ですが、実際にその内容を行動に移す効果まではあると言えないので、実際の運用にあたっては、業務目標や人事評価の基準に反映させるようにするなどの動機づけを行うことが必要です。