「特定社会保険労務士」と「社会保険労務士」の違い

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

特定社労士と社労士の違い

電通の若手社員が過労死した事件は、超過勤務やパワハラの実態を広く社会に知らしめました。また、2013年に改正された「労働契約法」で導入された「無期労働契約への転換」、いわゆる「無期転換ルール」に備えた企業の人員整理行動は、使用者/労働者間の緊張を高めており、労働問題はここ数年で大きく顕在化してきています。

労働問題の解決を、裁判(民事訴訟)や労働審判といった手段を用いて行うと、弁護士費用だけでも数十万〜と、多額の費用が必要となりますし、解決まで時間もかかります。

そのような背景のもと、安価でスピーディーに問題解決をサポートする仕組みが、「特定」社会保険労務士によって提供されています。この、特定社会保険労務士が行うことの出来る、裁判や労働審判を避けた労働問題解決手段・「紛争解決手続代理業務」の説明を通して、「特定社会保険労務士」と「社会保険労務士」の違いを解説します。

「紛争解決手続代理業務」とは

社会保険労務士法には、紛争解決手続業務について説明があります。要約すると下記となります。

  1. 都道府県労働局及び都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせんの手続の代理
  2. 都道府県労働局における障害者雇用促進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法及びパート労働法の調停の手続の代理
  3. 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理
  4. 紛争解決手続代理業務には、依頼者の紛争の相手方と当該紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に和解の交渉を行うことや当該紛争解決手続により成立した和解契約の締結の代理を含む。

上記の詳細は、このページの下部に記載しています。詳しく知りたい方は御覧ください。

「特定社会保険労務士」とは

特定社会保険労務士は、上で説明した「特定紛争解決手続代理業務」を行うことが可能な社会保険労務士です。

特定社会保険労務士になるには、「紛争解決手続代理業務試験」に合格し、その合格した事を、社会保険労務士名簿に付記される必要があります。

「紛争解決手続代理業務試験」は、2005年の社会保険労務士法改正を受けて、2006年度から実施されている試験で、受験前には紛争解決手続代理業務に必要な学識及び実務能力に関する研修を修了しなければなりません。

「特定社会保険労務士」への相談方法

労働者、使用者ともに、下記のような労働問題が発生した場合、特定社会保険労務士に問題解決の手続を依頼できます。

では、どのように特定社会保険労務士を探したら良いのでしょうか。編集部のおすすめは、社会保険労務士会連合会の「社労士会労働紛争解決センター」に紹介してもらうという方法です。特定社会保険労務士は「特定紛争解決手続代理業務」が「可能」ですが、だからといって積極的に紛争解決を行っている社労士はまだまだ少数派です。

社会保険労務士会連合会は、各都道府県の社会保険労務士会の連合組織で、厚生労働大臣の認可を受けた法定団体なので、安心して相談できると思います。

社労士連合会・ホームページ

「社労士会労働紛争解決センター」は、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)」に基づく法務大臣の認証と、社会保険労務士法に基づく厚生労働大臣の指定を受た「あっせん」を行う機関で、経営者と労働者が、直接対面すること無く、双方の納得した解決をサポートしてくれます。

→ 「総合労働相談所・社労士会労働紛争解決センター

労働者側が相談するケース(紛争解決センターの説明より)

  • 突然、解雇されたうえ、先月分の給与が支払われない
  • 経営不振を理由に退職勧奨された
  • 残業代を支払ってくれない
  • 退職金の支払いを拒否された
  • 療養後の職場復帰の際に、配置転換されたが元の部署に戻りたい
  • 一方的に賃金を減額された
  • など

経営者が相談するケース(紛争解決センターの説明より)

  • 社員の退職問題
  • 管理職と社員のトラブル
  • 社員からの未払い残業代の請求
  • 遅刻・欠勤の多い社員
  • など

「特定社会保険労務士」が可能な業務の比較

下記「1号区分」の「紛争解決手続代理」業務が可能なのは、特定社会保険労務士だけです。通常の社会保険労務士や、無資格の一般企業等は行うことが出来ません。

ここで「特定社会保険労務士」「社会保険労務士」「無資格者」別に、どの立場でどのような人事労務関係サービスを提供できるか一覧で確認してみましょう。

区分業務内容特定社労士社労士無資格者
1号業務申請手続等業務労働社会保険諸法令に基づいて行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、異議申立書、再審査請求書、その他の書類(以下「申請書等」という)を作成すること
申請書等について、その提出に関する手続きを代わってすること
労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、異議申立て、再審査請求、その他の事項(以下「申請等」という)について、又は当該申請書等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述について、代理すること(以下「事務代理」という)
紛争解決手続代理業務個別労働関係紛争解決促進法に規定する紛争調整委員会におけるあっせんの手続並びに障害者雇用促進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法及びパートタイム労働法に規定する調停の手続について、紛争の当事者を代理すること
都道府県知事の委任を受けて都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争(一定の紛争を除く)に関するあっせんの手続について、紛争の当事者を代理すること
個別労働紛争(紛争の目的の価額が120万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る)に関する民間紛争解決手続であって、厚生労働大臣が指定する団体が行うものについて、紛争の当事者を代理すること
2号業務労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成する
3号業務事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること

 

まとめ

「紛争解決樹団代理業務」に該当する業務を、特定社会保険労務士は行うことが可能です。特定社会保険労務士は、通常の社会保険労務士では行えない業務を、法律により認められた存在です。

労働問題が起きた場合には、社労士紹介サービス等を利用し、特定社会保険労務士を検索して相談することも可能ですが、不安な方は「社会保険労務士会連合会」に相談されることをオススメします。

なお、特定社会保険労務士が扱うことのできる代理業務は、個別労働紛争に限定され、紛争の目的の価額も120万円までに限定されます。それ以上の金額を争う場合は、弁護士に代理を依頼する必要がありますので、注意しましょう。

参考)社会保険労務士法の「紛争解決手続代理業務」定義箇所

社会保険労務士法、第一章 総則には、下記の通り記載されています。

第二条
(中略)
一の四  個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律 (平成十三年法律第百十二号 )第六条第一項の紛争調整委員会における同法第五条第一項のあつせんの手続並びに障害者の雇用の促進等に関する法律 (昭和三十五年法律第百二十三号)第七十四条の七第一項 、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 (昭和四十七年法律第百十三号)第十八条第一項 、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 (平成三年法律第七十六号)第五十二条の五第一項 及び短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律 (平成五年法律第七十六号)第二十五条第一項の調停の手続について、紛争の当事者を代理すること

一の五  地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第百八十条の二 の規定に基づく都道府県知事の委任を受けて都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第一条に規定する個別労働関係紛争(労働関係調整法 (昭和二十一年法律第二十五号)第六条に規定する労働争議に当たる紛争及び行政執行法人の労働関係に関する法律 (昭和二十三年法律第二百五十七号)第二十六条第一項 に規定する紛争並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)をいう。以下単に「個別労働関係紛争」という。)に関するあつせんの手続について、紛争の当事者を代理すること

一の六  個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が百二十万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る。)に関する民間紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律 (平成十六年法律第百五十一号)第二条第一号 に規定する民間紛争解決手続をいう。以下この条において同じ。)であつて、個別労働関係紛争の民間紛争解決手続の業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として厚生労働大臣が指定するものが行うものについて、紛争の当事者を代理すること

2  前項第一号の四から第一号の六までに掲げる業務(以下「紛争解決手続代理業務」という。)は、紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつ、第十四条の十一の三第一項の規定による付記を受けた社会保険労務士(以下「特定社会保険労務士」という。)に限り、行うことができる。

3  紛争解決手続代理業務には、次に掲げる事務が含まれる。
一  第一項第一号の四のあつせんの手続及び調停の手続、同項第一号の五のあつせんの手続並びに同項第一号の六の厚生労働大臣が指定する団体が行う民間紛争解決手続(以下この項において「紛争解決手続」という。)について相談に応ずること
二  紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に和解の交渉を行うこと。
三  紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約を締結すること