バックオフィスの業務とは?/バックオフィスマスター・其の零
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
みなさんこんにちは、中小企業診断士・社会保険労務士をしているこうへいです。
診断士・社労士として独立開業する前は、大手企業/中堅企業/ベンチャー企業でバックオフィス部門に所属し、経理、財務、人事、労務、経営企画、総務など幅広く業務を経験しました。現在はその経験を活かし、クライアント企業のバックオフィス構築をお手伝いしています。
でも実は、社会人の出発点は営業マンだったんです。
バックオフィスの世界に飛び込んだのは、社内のチャレンジ公募。動機は不純、地方への赴任で縁もゆかりもなく、このままどうするんだろうという不安から。公募に受かって本社バックオフィス部門に配属されたものの、最初は後悔の連続でした。仕事のやり方を覚えるのに精いっぱい。なぜ「こういうこと」をしているかはわからず、3年ぐらい自分のことをロボット(マシーン)と呼んでいました。当然ミスをするわけですよ。意味が分からずやっているわけですから。
3年間も意味わからずロボットをやってたんですが、実は半年くらいで意味を理解する方法があったんじゃないかと、今振り返ると思うんです。
さて、前置きが長くなりましたが、今回から全6回の連載シリーズで、私の経験を踏まえたバックオフィス構築について、日々のルーチンや会社のステージに応じた構築に関することを書いていきます。もし私と同じようにロボットになってしまっている方がいらっしゃったら、早く人間に戻るためのアシストとなれれば嬉しいと思っています。
全6回の内容は、下記のような感じでいく予定です。
- 序章:バックオフィスの業務とは?
- 創業:経理とか税金などどうしたら良いんだろう。やがて。。。貧乏暇なしインターフェースつらいわ、人も雇ったし、事務してくる人が欲しい。
- 30名の壁:番頭さんが必要かなぁ、どんどん採用もしたいし、採用や労務管理の人もとろうか。それに数字も見ておきたい。または、出資者へ報告せんといかんことになった。人も30人ぐらい。労務管理も見た方が良いのかな。
- 50名の壁:各部で数字管理をさせた方が良い? 正確にミスなくチェック体制も必要。労務管理も50人の壁?って社労士に言われたんだが、どういうこと
- 上場前夜:組織的なバックオフィスを作る必要がある。属人化から組織化へ。みんな自分の壁を壊そうよ。頼むから門を開けてくれ~。ダークサイドに落ちないで。
- 上場後:組織でやってきたつもりだったが、システムもどんどん強くしないとこれはあかん。また、みんなのレベルもあげないといかんよなぁ。新しい風が台風?壊れる、それが良いのか・悪いのか
- 終章:書いてみて独りよがりな感想
ということで今回は序章 バックオフィスの業務とは?をお届けします。
バックオフィス業務には何がある?
バックオフィスの仕事って何があると自問自答した結果、思い浮かぶものをざっと書いてみました。
経理
- 帳簿の起票:売上の集計、原価計算、人件費の計上、費用計上、減価償却費 ※資産、負債側も含む。棚卸があればその在庫管理
- 税金の申告:法人税、事業税、消費税、固定資産税、源泉税、法定調書、法改正対応、税理士窓口、会計士窓口(上場等の規模によっては)、システム導入(経理財務システム、販売管理システムなど)
財務
- 債権債務管理:売掛金の消込み、買掛金・未払金、税金・保険料の支払いなど
- 資金繰り管理:現金預金、借入金、日・月繰り、通帳管理、銀行との窓口、出資先対応
人事労務
- 給与計算:月給・時給制、残業及び賞与の計算、社会保険、雇用保険、住民税、所得税の反映、年末調整、住民税支払報告、社労士窓口
- 労働/社会保険:資格取得・喪失、随時改定、算定基礎、労働保険料の申告、傷病手当金、出産育児一時金・手当金など
- 労務管理:勤怠管理、安全衛生(健康診断、長時間労働者の面談、ストレスチェックなど)
- その他:労務相談や従業員トラブル対応、産業医窓口(事業場50人以上)、入退社の手続き、法改正対応
- 人的資源管理:採用計画、配置転換、人事評価制度構築や結果の反映、その他福利厚生制度、教育
- システム導入:勤怠管理、人事評価、採用管理、給与計算など
総務
- 備品などのファシリテーション管理、各種規程、稟議申請等の運用や保管、社内イベント設営・司会、株主対応、株主総会、個人情報管理、押印管理
法務
- 契約書チェック、契約書の管理、登記関連(これは総務?)、弁護士窓口、司法書士窓口(これも総務?)
社内IT
- パソコン購入や設定、IT機器の調達や管理、Windowsやプロジェクトツール等のライセンス管理、セキュリティー対応。※バックオフィスでなく、システム運用のサポート社内基盤チーム、情報システム部が担当する会社も多いかもしれません。
- システム導入(グループウェア、ワークフローシステムなど)
経営企画
- 中期経営計画、予算策定、予算実績管理、資本提携・業務提携(提携から管理まで)、新規事業育成、上場準備(場合によっては)
その他
上場していたら、IR室や内部監査室も必要になると思いますし、経理財務での開示資料の作成や監査法人対応もあると思います。その他グループであれば、子会社や関連会社の管理も出てくると思います。
赤字は毎月のルーチンではないもの、青字は士業との関係を表しています。
もちろん、上記以外にも業務はあるとは思いますし、管轄する部署が企業によって違う場合もあるはずです。
会社を作った時から上記すべてが必要かというと、もちろん全て必要ではないです。部署も作る必要がないし、法律で守るべきものと会社の規模が小さくてもやっておいた方が良いもの(やりたいもの、もっというと続けれられるもの)だけ、ピックアップし、担当する人を決めれば良いだけです。それが社長自身なのか、社員なのか、外の士業や業者なのか。最初はほとんどが兼務していることでしょう。
その点について次回以降書いてみたいと思います。月のルーチンとイベントの年間カレンダーのようなものも作ってみたいと思います。やること忘れていて、「はっと」気付いて焦っちゃうことありますものね。
「はっと」気付いて焦っちゃうこと(例)
- 3営業日前もうこの日が給与計算の確定か、今月はカレンダーからタイトだなぁ
- 年末調整、回収資料の期日は、来ているかまだ確認していないや
- おっと年をこしたら固定資産税の申告があった
- そうだ法定調書もやらないと、法定調書って税務署だっけ 各市区町村に出すものなかったっけ
- また、四半期決算か、そろそろ来期予算の準備もしなきゃ etc
バックオフィス業務に向いている人とは?
バックオフィス担当に向いている人はどういう人ですか?と相談を受けることがあります。
会社の状況によって異なるのではっきりした事は言えませんが、少なくとも会社が目指すべきところに共感している人、ホスピタリティーがある人という条件は大事かなぁって思います。バックオフィスは、社内とさまざまな部門・人と密接に絡んでいく部署ですので。
作業が早いけれどミスをすることも多い人もいれば、作業が遅いけど心配性で何度も見てミスが少ない人もいるでしょう。仕組みを作るのをうまい人もいるでしょう。
向上心がある人、余りない人もいる。
コミュニケーションの上手な人もいる。寡黙な人もいる。
処理は早いが自分の仕事を囲ってしまって、すごーく気を遣う関係を作る人もいる。
スキルや経験があるけど、どうも会社の社風と合わない人もいるでしょう。
悩ましい問題ですが、最初から完璧な人はいません。お互いにすり合わせをして、成長していくことが大切だと思います。それぞれの特性を理解し、生き生きと仕事をしていくことが必要だと思います。
スキルや経験は、目の前の業務に真摯に向き合うことで向上します。私自身も出発点は営業マンでしたが、お世話になった会社のバックオフィス体制・組織がしっかりしていて育ててもらいました。
会社のバックオフィス体制・組織がまだしっかりしていない場合でも、税理士や社労士などの士業が関わっている会社であれば、その人たちを活用しつつ、教えてもらうという方法もあります。もちろん自ら調べたり、勉強することが重要なのは言うまでもありません。
バックオフィス業務の属人化は避けるべきか?
属人化は避けるべきか?、これもよく聞かれます。バックオフィス業務の規模があまり無い会社で、拡大する予定もない会社なのであれば、属人化って本当にだめなのか?複数人でやるよりも効率的で良いんじゃないですか?って聞かれて答えに困ったことがありました。
難しい問題ですね。でも金庫番が金庫を持って逃亡した、どこかにお金が流れていたという類の話は聞きますよね。属人化は不正の温床となりますので、そこは十分注意が必要でしょう。そういったリスクを理解した上で属人化するのはアリだと自分は思います。もちろん属人化は避けるべきですが、そうも言っていられない場合は、リスクを知った上で判断しましょう。
完全に士業に丸投げした場合でもリスクはありますよ。士業との関係が切れてしまった場合、会社に必要なデータが無くて困ってしまうなんてことも聞きます。会社の実情に合わせて、判断することが大切でしょう。
あとバックオフィス担当者が、ダークサイドに落ちるリスクも忘れてはなりません。
慣れてくると「処理をしっている=権限がある」と勘違いしてしまい、一般社員と確執が生まれ始めバックオフィス業務が円滑に回らない会社になってしまうことがあります。属人化はダークサイドに落ちる可能性をはらんでいるのです。
今回のまとめ
バックオフィスの業務は多岐にわたります。未経験者が最初から完璧に業務をこなすのは不可能だと考えた方がよいでしょう。
しかし、バックオフィスは、気合いで回すことが可能です。なぜなら、処理や考えが間違っていてももっと良い方法があっても気づかずに進んでしまうからです。
士業からの指摘、税務調査や監督署の臨検などの行政からの調査、合併やM&Aによる評価、上場を目指すタイミングで間違いがわかることがありますが、それは限られたシチュエーションでしょう。
会社のステージに合わせ、バックオフィスの完成度を高くしていけばよいのです。そしてバックオフィスに携わる方も、そのステージでの業務に対し真摯に取り組むことで、士業や新たな経験者の参画によりスキルアップしていくことができるでしょう。
次回は、会社を立ち上げてそして少したって動きがでてきたバックオフィス業務について語ります。
それではまたお会いしましょう。
「こうへい」について
営業マンからバックオフィスへ転身した元上場会社のCFO、中小企業診断士・社会保険労務士Office Miya-Line (ミヤ-ライン) 代表 宮木 公平(みやき・こうへい)
中小企業診断士、特定社会保険労務士、認定上級IPOプロフェッショナルとして、企業のバックオフィスの応援に取り組んでいる。また、人事評価トレーニングの講師や厚生労働省受託事業のセミナー講師で全国を回っています。
2017年の講師テーマで多かったのは「ハラスメント」でした。
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