雇用契約と業務委託契約の違いと法的な注意点について弁護士さんに聞いた
執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 | |
最近はクラウドソーシングサービスなども多くの方に認知されてきて、フリーランスの方に業務を依頼する機会も増えてきています。しかし、フリーランスの方と契約を結ぶ際には、法的に注意すべき部分もあります。今回は雇用と業務委託という概念を法的な視点から考えたときに、何が異なっていて、どこに注意すべきなのか、GVA法律事務所の弁護士・社労士 飛岡さんに聞いてきました。
飛岡依織さんのご紹介
1985年、大阪府生まれ。
2008年、同志社大学文学部英文学科卒業。
2010年、明治大学法科大学院卒業。同年、司法試験に合格。
2013年、GVA法律事務所に入所。同年、社会保険労務士登録。
社員の入退社等に関する日々の問題から就業規則・労使協定等の人事・労務問題を中心に、ベンチャー企業の法務全般をサポート。また、医療・教育ベンチャーのサポートにも取り組む
フリーランスとの準委任契約と請負契約とは
Q.最近ではフリーランスの方に仕事を依頼する会社も増えていると思います。ちなみに法律事務所でもフリーランスの方に仕事を依頼されることはあるんでしょうか?
そうですね、法律事務所の場合はあんまりないかなと思います(笑)。法律事務所の業務の性質的に、あまり相性が良くないんじゃないでしょうか。お客さまの機密に関わるような情報を扱うことが多く、弁護士法上厳しい秘密保持義務を負っているので、フリーランスの方に関わらず、外部の方に事務所を出入りしてもらうことは情報管理の点から心配かなと思います。事務所のWEBサイト制作を依頼する場合など本業に直接的には関わらない部分で発生することはあるかと思います。
Q.フリーランスの方に仕事をお願いする、という行為は法的な概念としてはどのように定義されているのでしょうか?
フリーランスの方に依頼される場合に、「業務委託契約」という言葉がよく使われると思いますが、実はこの「業務委託契約」という言葉は法律上の言葉ではありません。フリーランスの方に依頼をするという行為は、法律上の「準委任契約」または「請負契約」に該当することが多いですね。
まず、準委任契約とは、簡単にいうと、事実上の行為や事務を行うことを委託して、受託者はその行為を行うことを内容とする契約をいいます。
準委任契約は、合意した行為(業務)を遂行する義務を負うものであって、成果物の完成義務を負うものではないという特徴があります。例えば、良くあるのが、システムの保守運用を依頼するようなケースです。システムの保守運用は、システム開発のように、システムのコードを書いて完成させて納品する、といったものではなく、継続的に、システムの管理やバグ等の修正、サポート業務など、合意された業務を粛々と遂行していくものです。
一方、請負契約は、仕事を完成させることを委託し、委託された側はその仕事を完成させることを内容とする契約をいいます。仕事を完成させることをもって報酬を受け取る権利が発生するのであって、準委任契約のように、決められた行為を遂行するだけで良いというわけではありません。
フリーランスの方に依頼をされる場合、上記の準委任契約か請負契約に該当することが多いと思います。
雇用契約と業務委託契約との契約内容の違い
Q.一方で普通に自社の従業員さんに仕事をお願いするという行為は法的な概念としてはどのように定義されているのでしょうか?
会社が自社の従業員に業務を依頼する場合には、法的には雇用契約とか労働契約と呼ばれる契約関係が成立しています。
労働契約というのは、使用者に使用されて労働し、対価として報酬(賃金)をもらう契約のことです。準委任契約とよく似ているのですが、単にこの仕事をやってください、という準委任契約とは異なっていて、会社の指示に従ってこの時間分の労働役務を提供してくださいという考え方をします。
Q.雇用契約も業務委託契約も仕事をお願いする条件などを記述しているという点では、同じようにも思えるのですが、改めて整理すると契約内容としてどこが決定的に違うのでしょうか。
まず共通点としては、何らかのお仕事を依頼して、それに対して対価を支払うという点は同じす。大きく異なる部分としては、労働契約の場合には使用者側に指揮命令権があって、その指揮命令に従って、業務を行うことになります。
一方でフリーランスの方などに業務を依頼する業務委託の場合には、業務を行う側の裁量に基づいて自分のやり方でやればよくて、むしろ原則的には依頼者側は仕事のやり方を細かく指揮命令することはできません。
実態として指揮命令をしていれば、契約の名目はどうあれ、労働契約関係にあると見なされる可能性は高まっていきます。
もう一つの違いとしては、専念義務と呼ばれるものがあります。最近では副業を認める会社も増えてきていますが、原則的には労働契約を結んでいる従業員は自分の会社の業務以外は行わないということを前提としています。一方でフリーランスの方の場合には、いろいろなお客さんがいて、複数の箇所で報酬を得ていることが当然にあります。
労働契約か準委任契約か争われるときの判断要素と企業側リスク
Q.過去に雇用契約か業務委託か争われたケースでは、具体的には何を判断基準として判決がなされているのでしょうか。
これが業務委託か労働契約なのかという判断ははっきりと線引きできるものではありません。複数の要素を考慮して、総合的に決めることになります。その要素の一つが、使用者(会社)の指揮監督下にあるのかということです。具体的には、会社のルールや規定、マニュアルに従って業務を行っているという状態にあるかどうかです。
また業務について監督されている状態にあるかどうかも考慮要素です。出勤時間や退勤時間が労働契約を締結している従業員と同じように細かく決まっているなど、勤怠管理がなされているかどうかという点も重要な考慮要素となります。
報酬の額としては、業務委託の方は一般的に専門的な能力を持っていて、細かい指揮命令を行わなくても成果を上げてくれる優秀な方であると考えられるため労働者の方よりも高額な報酬であることが多く、報酬額が業務委託として適正な数値であるということも検討要素の一つではあります。
また、業務委託で仕事を受けるフリーランスの方は、仕事の依頼を受けても断ることができますが、従業員は原則として特別の事情がない限り業務を行わなければならないため、その辺りの状況も検討要素となります。
そもそも労働者がなぜ強く保護されているかという理由の一つに、労働者は原則的に1つの会社のみから報酬を得ているので、その会社から低廉な報酬で働かされたり、いきなりクビにされるたりすると生活ができなくなってしまうため、そのようなことが起こらないように法律で保護する必要があるという考えがあります。これに対し、個人事業主の方は、クライアントを複数持ち、忙しい時には仕事を自ら断ることも可能です。そこで、専業させられているかどうかという点も、実体判断の際に考慮される1つの要素となるのです。
実際によく争われるケースとしては、業務委託と言いながら、ほとんど社員のような働き方をしていた場合に、会社側から契約を打ち切ったパターンですね。個人事業主の方が突然の解約に怒り、労働基準監督署に相談しに行って、実質労働者じゃないのかということで問題が顕在化することが多いかと思います。
もし雇用だと認定された場合には、会社側は幾つかの影響を受けます。
まず、大きいのは残業代の問題ですね。業務委託であれば残業や割増賃金という概念は当てはまりませんが、労働者ということになれば、最大2年分遡って残業代を請求される可能性があります。同様に社会保険料なども最大2年分支払わなければならない可能性もあります。
経済的なインパクトは以上のようなものが一般的ですが、その他行政指導などによるブランド毀損を含めたリピュテーションリスクや、他の社員からの信頼低下やモチベーションダウンなどもあると思いますね。
紛争まで行くかは別として、実体は雇用だけど、名目としては業務委託として扱っているケースは現実には沢山ありますので、改めて注意が必要かと思います。また、ベンチャー企業の方が、大手企業よりもこのようなリスクを抱えたままお仕事を依頼している場合が多くありますので、経営者の方は念のため状況を確認しておくことをお勧めいたします。
労務・法務担当者や経営者が意識すべき注意点とは
Q.労務管理や法務を担当される立場の方は、どのような点に注意して雇用や業務委託の手続きを行うべきなのでしょうか?飛岡さんがもしその立場にいるとしたらどのような点に注意してお仕事をされますか?
業務委託契約の内容として、時給ベースで計算をしていたり、勤務時間が細かく定められていたりすると労働契約であると判断される可能性が高くなってしまいます。また業務の内容を説明する必要はあると思いますが、あまりに細かく業務のやり方まで指示してしまうと指揮命令関係が認められやすくなります。
場所に関しては、業務委託であっても、同じ場所でコミュニケーションをとったりする必要がある場合もあるので、必ずしも出勤してもらうということが問題になるわけではありません。ただ、出勤時刻や退勤時刻が定められている、早退や遅刻により控除されるなどの事情があると労働契約と見なされやすくなるので、注意が必要です。
業務委託の方と労働契約を締結した社員について、違いを明確化できておらず、契約内容は違えども、実態は全く同じ働き方をしてしまっているという場合が多くあります。契約内容だけでなく、実体として同じ働き方にしてしまわないように契約後も注意しておくことを心がけておくことが重要と考えます。
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