セクハラは“離す”しかない|特定社会保険労務士・有馬美帆

執筆: 有馬美帆

セクハラというとまず思い浮かぶのは、男性から女性へ、女性から男性への受け手の意にそぐわない言動ではないでしょうか。
 

でも男性から男性、女性から女性への言動も、セクハラ(セクシュアルハラスメント)になり得ることを知っていますか?
 

例えば、20代の女性の部下が40代・50代の女性上司に何らかの性的言動をしたとしましょう。同性同士なら…ということで、まずはと安心してしまうこともあるかと思います。
 

しかし実はそこに大きな落とし穴があるのです。
 

会社側の呑気な対応をうけて、相談者はセクハラをされたことよりも会社の不誠実な対応に不満が増えていきます。
 

油断した対応をしたことで、相談者の信頼を損ない、訴訟など思わぬ方向に進んでしまうことも十分考えられます。
 

今回の記事では、具体的なセクハラ事案を例として挙げ、企業側はどう対応すればよいのか、社会保険労務士法人シグナル代表の有馬美帆さんに教えていただきます。
 

上司からの、しつこいデートの誘い

【事案1】普段、社内では関わりのない男性上司から、SNSのダイレクトメッセージで「休みの日にデートに行こう」と何回もしつこく誘われて困っている。と女性社員から管理部門に相談があった。

これは最近よくある事案ですね。しかもSNS上では友達同士ではなかったりします。その男性の上司も、戸惑っている女性部下の立場と気持ちを感じ取ってくれたらいいのですが、好意を持っているという気持ちを強く出し過ぎてしまっているようです。
 

セクハラは、男女雇用機会均等法で次のように定義されています。

セクハラの定義

  1. 職場において行われる性的な言動のこと
  2. その行為により従業員が労働条件につき不利益を受けていること
  3. その行為により従業員の就業環境が害されていること

 

ただ、「被害者がイヤと思ったらセクハラなんだ」と言われるように、①~③に該当しなくても、真摯に対応する必要があります。
 

相談者に対し、管理部門が安易な判断で「セクハラとは言えません」などと答えるのはもっての外です。
 

このSNSのやり取りは、いつの時間帯に送られているかは分かりませんが、おそらく業務時間後でしょう。
 

そうすると職場ではないということになりますが、職場で出会った人間関係なので①に該当すると考えられます。
 

職場とは、企業内だけではなく、取引先の企業内、車・電車も該当し、夜の食事の先も強制か任意か、仕事の話がされたかどうかで判断します。
 

普段会社では関わりのない上司なので、今現在は労働条件での不利益はなさそうということで②は該当しないと考えられます。
 

そして本人が不快に思っていると相談してきているので、就業環境が害されており③に該当すると考えられます。
 

今回のセクハラ相談の結論

 → 企業として、セクハラとして対応すべき内容です。

同性間の告白

LGBT

後輩男性から、SNSで「恋愛対象として好きです。付き合ってください」と告白されて困っていると先輩男性から管理部門に相談があった。

異性間だけではなく、男性から男性、つまり同性間の性的言動もセクハラに該当します。そして、その立場も関係ないので、後輩から先輩への性的言動も対象になります。
 

「恋愛対象として好きです。付き合ってください」が”性的言動”にあたるかどうかですよね。
 

セクハラ指針および通達において、性的な言動にあたる行為として次のような例が挙げられています。
 

セクハラに当たる性的言動とは

【①性的な内容の発言】

  • 性的な事実関係を尋ねること
  • 性的な内容の情報(噂)を流布すること
  • 性的な冗談やからかい
  • 食事やデートへの執拗な誘い
  • 個人的な性的体験談を話すことなど

【②性的な行動】

  • 性的な関係を強要すること
  • 必要なく身体へ接触すること
  • わいせつ図面を配布・掲示すること
  • 強制わいせつ行為など

 

今回のセクハラ相談の結論

 → 食事やデートへの執拗な誘いに該当する可能性があるので、企業としてセクハラとして対応すべき内容です。

密室で双方の言い分が異なる

会社の飲み会の後、2次会でカラオケに行き、男性上司と部下の女性のみ最後まで残った。その際に「男性上司が部下の女性の脚を触った」と女性側から相談があり、管理部門として男性上司に話を聞いたが、「そんなことはしていない」と否定している。

今までのようにメールでのやり取りであれば証拠が残っていますが、密室で二人きりとなると証拠が残っていません。そして行為者側が否定するのはよくあることです。
 

セクハラは、パワハラ等の他の職場ハラスメントと異なり、その行為が行われるのが密室である場合がほとんどです。密室となると、第三者の意見を聞いて判断することが難しくなってきますね。
 

今回のセクハラ相談の結論

 → セクハラに該当する「必要なく身体へ接触すること」が実際に発生していたか確認はできないが、企業として「セクハラ事案」として対応すべき内容です。

厚労省「セクハラ指針」について

さて。それではセクハラの相談を受ける場合、どのような点に注意すべきでしょうか?
 

企業のセクハラ対応措置の参考となる厚労省「セクハラ指針」には、10項目の措置義務が定められているので、この義務を遂行する必要があります。
 

セクハラ指針の内容は、事前対応(予防)と事後対応(解決)に分けることができます。

セクハラ指針

事前対応(予防)

  • :セクハラの内容、あってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発
  • :行為者への厳正な対処方針、根威容の規定化と周知・啓発
  • :相談窓口の設置
  • :当事者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知
  • :相談、協力等を理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨の定めと周知・啓発

事後対応(解決)

  • :相談に対する適切な対応
  • :事実関係の迅速かつ正確な確認
  • :被害者に対する適正な配慮の措置の実施
  • :行為者に対する適正な措置の実施
  • :再発防止の実施

 

セクハラ指針の措置義務を守るために、具体的にどうすれば良いか考えていきましょう。
 

まず事前対応(予防)については、①②⑨⑩については、セクハラ防止規定やセクハラ防止研修を実施して周知・啓発しましょう。
 

③の「相談窓口の設置」については、設置後の相談窓口の運用が重要です。
 

相談窓口を設置している企業だったとしても、相談しやすい環境であるか?例えば、「しつこいメールがきている」というような些細とも受け取れる相談であっても、十分な相談体制が構築されているか確認しましょう。
 

不満や不安は小さいうちに拾って解決していくのが、セクハラ含め労働トラブル対応の基本中の基本です。
 
 

そして相談を受けた後(④⑤⑥⑦⑧)についてです。
 

早急に、でも慎重に、事実を企業全体で公にすることがないようプライバシーも守りながら対応します。これは本当に大変です。
 

行為者だと言われている人が、「ごめんなさい、もうやりません」とすぐさま認めて改善するのが理想なのでしょうが、実際そうでないケースが多い。それは過去にセクハラで飛ばされたという人を知っているからかもしれませんし、他の理由かもしれません。
 

行為者だと言われている人にどう対応するのが正解なのか。事実関係の確認には限界があります。
 

罰を与えることに重点を置くのか、再発防止に重点を置くのか(セクハラ研修の再実施等含む)、企業は方向性を明確にする必要があります。罰を与えてスッキリするのは企業側だけなので、再発防止のために、何をすべきなのか、企業側は問われていると考えるべきでしょう。
 

セクハラ事実確認のポイント

 

相談があった時点から1週間以内に、関係者に事実確認し、相談者に何らかのフィードバックをしましょう。

→ ゆっくり1ヶ月、という対応をしていると、相談者からの信頼を損ない、企業への不信感にも繋がります。
 
 

面談する場合は、面談者と相談者の2人だけではなく、もう一人同席してもらいましょう。

→ 先に紹介した相談例のように、女性が体を触られているケースだと男性は不適切でしょう。”セカンドレイプ”になるのを防がなくてはいけません。
かといって、女性でいいのか。20代の可愛い女性をやっかむ年上女性が存在するのも事実です。年上女性が面談対応をし、「あなたがそんな短いスカートを履いているのが原因だ」と言ってしまい、更なるトラブルを起こしたケースもあります。そうなると面談対応は誰がするのが一番いいのか、ということですが、面談者と相談者の2人だけではなく、もう一人同席してもらいましょう。場合によっては顧問社労士や弁護士・産業医に同席してもらうのがいいでしょう。
 
 

面談内容はその場で箇条書きでもいいのでメモを取り、「間違いありませんか?」と尋ねて署名押印してもらいましょう。

→ 相談者側も本当はセクハラされていないのに、セクハラされたと訴えてくるケースもあります。(その行為者に嫌悪を感じ、陥れるために、”セクハラ”を用意してくることがあります。。。)そのためにも、署名押印をもらい、それを元に行為者と面談をしましょう。そして、行為者との面談でも、同様に署名押印をもらいましょう。これは、万が一訴訟に繋がった場合にも有効な証拠能力が高い資料となります。
 
 

時系列で事実を整理し、分析する姿勢で事案と対峙しましょう。

→ 例えば先に紹介した相談例のように、脚を触ったとされる場合。それは一体、何日前のことなのでしょうか。触られたすぐ後に相談に来るケースは稀です。数か月悶々と過ごし、我慢できなくなって相談してきます。そうするとその数か月間は、男性上司と仲良く仕事をしていたという状況だったりするのです。しかもその事件の飲み会の後には、「ごちそうになりありがとうございました。楽しかったです。」などとお礼メールを男性上司に送っていたり。それを「不自然」だと扱ってしまうのか、男性上司が権力を持っていたので仕方なく仲が良いようにみせないといけなかったのか。企業担当者として、そこを正しく冷静に見極める必要があります。客観的な意見が必要な場合は、顧問社労士や弁護士・産業医に相談すると良いでしょう。
 
 

事実確認ポイントの最後に、セクハラ相談NG10項目をご紹介します。実際に相談を受けると、ついつい喉から出そうになる言葉なので十分気を付けましょう。
 

セクハラ相談NG10項目 〜セクハラの相談者が言ってはいけない言葉〜

  1. 「セクハラを受けるなんて、あなたの行動にも問題があったのではないか」
  2. 「どうして、もっと早く相談しなかったのか」
  3. 「それはセクハラとは言えません」
  4. 「これくらいは当たり前、それはあなたの考え過ぎではないのか」
  5. 「そんなことはたいしたことではないから、我慢した方がいい」
  6. 「決して悪い人ではないから、問題にしない方がいい」
  7. 「そんなことでくよくよせずに、やられたらやり返せばいい」
  8. 「個人的な問題だから2人でじっくりと話し合えばいい」
  9. 「そんなことは無視すればいい」
  10. 「気にしても仕方がない。忘れて仕事に集中した方がよい」

セクハラ相談のフォローアップ・ポイント

関係が悪化した両者は、再発防止のために”離す”

→ 罰ではなく、再発防止に向けた対応として、”離す”のは非常に有効です。むしろ、選択肢として考えられるのは、両者を“離す”ことのみといっても過言ではありません。中小企業やベンチャーの場合は離す先すらないというのも良く起こります。ワンフロアで部署もない状況であれば離すのは不可能です。だからといって、どちらかに退職してもらうことを選びますか?企業への貢献度や立場を考えると、行為者よりも相談者の方が辞めざるを得なくなってしまう。。。そんな解決方法は許されません。
 

行為者へのフォローアップも重要

→ 行為者からすれば、好意を持っている異性と仲良くなりたいという一心で勇気を出してアプローチした可能性も否定できません。その好意を受け止めてもらえず、むしろセクハラととられてしまった。相談者が企業に相談することで、その事実を知ってしまった行為者のメンタルヘルスも悪化してしまう可能性も十分あるので、その場合はフォローを欠かしてはいけせません。
 

まとめ

そう、セクハラって大変!なんです。

小さい企業であればあるほど対応策がなく、大変苦慮します。

離す以外にも選択肢はあるはず…と思われた方もいるかもしれません。

ただしよく考えてください。

別れた恋人と同棲できますか?

別れた配偶者と同じ家に住めますか?

”離さない”とはそういうことなのです。ましてや、相談者にとっては一度も好きになったことがない人。余計無理でしょう。

セクハラが他のハラスメントと比べて重要なことは、セクハラの内容の周知・啓蒙と話しやすい相談窓口の存在です。早期発見できれば、離さなくても謝罪することなどによって、その後もうまく当事者同士の人間関係を再構築できることもあります。

社労士としてではなく、ひとりの女性として個人的に思うことは、既婚者が無理やり不倫関係を迫ったり、相手が嫌がっているのをわかっていながら恋愛成就のために権力を振りかざすのは断じて許せません。

企業としては、それ相応の対応をすべきです。

ただし、一方で、恋愛に慎重な未婚男女が、純粋に好意を寄せ、気持ちを伝えようと悩んだり、努力している姿をみると応援したくなります。

そういったタイプの人であった場合は相手方はある程度理解し、なんでもセクハラととらえず、可能であれば、誘いを断る程度にとどめて、問題を深刻化させないであげてほしい。

恋愛と労働がミックスするセクハラは、なかなか一筋縄ではいかない。

最後になりますが、セクハラなどの職場内ハラスメントの対応には、社外の第三者が参加する方がスムーズに問題解決できる場合が少なくありません。最寄りの社労士にご相談するのがおすすめです。
 

※今回の記事は、平成29年10月1日の法令施行分までを対象としたものです。
 

参考文献

有馬美帆さんが代表を務める「社会保険労務士法人シグナル」の連絡先

  • 事務所名:社会保険労務士法人シグナル
  • 業務対応可能エリア:全国
  • 営業時間:9:00〜18:00
  • 電話番号:090-7950-7183
  • メール:info@sharoushisignal.com

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Profile

有馬美帆
有馬美帆
社会保険労務士法人シグナル 代表/特定社会保険労務士
2007年 社会保険労務士。2014年 独立。
急成長するベンチャー企業において、企業フェーズに応じた支援を行い、一歩先回りした提案により、お客様の成長を加速させており、IPOコンサルティング・労務トラブル相談・就業規則作成のご依頼で特に多くご好評を頂戴している。

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