初めての給与計算入門|#2新人労務担当者が知っておくべき残業代・割増計算のやり方

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

前回の記事「#1新人労務担当者が知っておくべき給与計算の前提知識」で、給与計算とはそもそも何をしているのか、給与とはどういう要素で構成されているのかをご紹介しました。まだ前回の記事を読まれていない方は読んでから、本記事をご覧いただいた方がわかりやすいかなと思います。

今回は「勤怠状況によって金額が変化する支給項目(変動的給与・非固定的給与)」の計算方法や押さえておくべき知識を説明していきたいと思います。一般的には「残業代」と言われている部分ですね。残業時間や残業代の取り扱いは、トラブルや法律違反になりやすい繊細な部分なのでしっかりと法律知識から押さえていきましょう。

 

残業代ってどういうものなの?

詳細な説明に入る前に、そもそも残業代がどういうものなのかを簡単に説明します。そもそも残業代と言う言葉は法律の用語ではありませんが、説明が伝わりやすいと思うので、まずはあえて「残業代」という言葉を使っています。

一言でいうならば、
「残業代とは、雇用契約や法律で決めたラインを超えて、頑張って仕事をしてくれた時間に対して支払うお金」と言えます。

 

1日の労働時間が8時間超え

前回の記事で、残業代に関する法律が労働基準法に書いてあるということをご紹介しました。この労働基準法では、原則として働く時間は1日8時間までと定められているのですが、この時間を超えると「残業時間」となり、その時間に対して「残業代」を払ったりします。また実は1日の労働時間の制限だけではなく、1週間の労働時間の制限もあります。

1週間の労働時間が40時間超え

労働基準法では、1週間の労働時間は40時間以下にするようにしてね!と定めています。この時間を超えた部分も「残業時間」となって、その時間に対して「残業代(時間外労働手当)」を支払うことになります。

休日の労働時間

そして雇用契約などで、「この日は休日にしましょう!」と書いてある日に働いてもらった場合にも、その時間に対して割増してお金を支払います。休日の労働時間に対して「残業代(正確には休日労働手当)」を払うということですね。

契約以上の労働時間

他にもアルバイトの方などに多いかもしれませんが、雇用契約書に「1日の働く時間は5時間にしましょう!」と定めてある場合は、6時間働くと1時間分の「残業時間」が発生します。労働基準法では8時間以下としか書かれていないのですが、契約が5時間としているにもかかわらず、その契約以上の時間働いているため「残業時間(所定外労働時間)」となるべきです。ただし、この時間に対しては法律の8時間の範囲内なので、割増してお金を払う必要は特にありません。

深夜の労働時間

深夜に関する規定もあります。労働基準法では22:00から翌朝の5:00までの間に働いてもらった時間は、夜遅くまで働いてもらったことに報いるために、通常より多く給与を払います。深夜労働手当は、正確には残業代ではないのですが、割増で支払うことには変わりはないので、ご紹介しておきます。

 

以上のように「残業代とは、雇用契約や法律で決めたラインを超えて、頑張って仕事をしてくれた時間に対して支払うお金」なのです。

 

残業代の計算式はこれ!

残業代を計算する式は、下記の通りです。

残業代=1時間あたりの賃金×割増率×残業時間

つまり残業代とは、普通に1時間働いたときにもらえる給料に一定の割増分を加えてもらえるお金ということです。まずはこの式の中の「1時間あたりの賃金」を計算する方法を説明していきます。

1時間あたりの賃金=1ヶ月の賃金÷1ヶ月平均所定労働時間

1時間あたりの賃金の計算式は上の通りです。まず1ヶ月の賃金とは何かを説明していきます。

1ヶ月の賃金の考え方

1ヶ月の賃金は、原則として支払われる支給項目の金額全てのことを言いますが一部例外があります。その例外は以下の7つの支給項目です。

・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらの手当は家族が何人いるか、どの駅から通勤しているのかなど、働いた時間と関係なく支給する項目であることがわかります。これらの手当を残業代を計算する基礎金額に含めてしまうと、家族の人数や通勤距離によって残業代の金額に差が出てしまうという不公平な状況が生まれてしまいます。

この7つは労働基準法施行規則という規則に定められています。7つの支給項目は、単なる名称によって決まるのではなく実態によって考えるので、「実態は違うけど名前だけ家族手当にしてしまえ!」としてもダメです。実態がこれらの7つの支給項目と異なれば、残業代の計算基礎に含まれることになるのでご注意ください。

これらの実態はどのように考えるべきなのかについてはまた次回以降の記事で書いていきますので、今は除外される支給項目もあるんだなーっというくらいで覚えて帰ってください。

1ヶ月平均所定労働時間

次に1ヶ月の平均労働時間について説明していきます。1ヶ月の所定労働時間というのは雇用契約などで決めた「1ヶ月にこの時間分だけ働きましょうね!」という時間のことです。しかし、月によって31日の日もあれば30日の日もあります。また祝日や休日がいっぱいある月もあったりします。

つまり1ヶ月の所定労働時間が月によって異なる場合があるということです。その場合には、1年間の各月の平均所定労働時間で計算を行っていきます。その1ヶ月の平均所定労働時間の計算は下記の式で行います。

1ヶ月平均所定労働時間=(年間暦日日数-年間休日日数)×1日の所定労働時間÷12

この計算式で書いている「年間暦日日数」とは、1年間の日数のことで365日です(うるう年は366日になる)。そして「年間休日日数」とは会社が決めた休みのことです。多くの場合には土日や祝日、お盆休みや年末年始休みとかです。

「年間暦日日数」から「年間休日日数」を差し引くことで、年間の労働日数が計算されるので、その日数に1日の労働時間をかけると年間の総労働時間が算出できます。そして最後に12で割り算を行うと、1ヶ月の平均所定労働時間がようやく算出できるというわけです。

以上の考え方をたどっていくことで下記の計算式を計算することができますよね。

1時間あたりの賃金=1ヶ月の賃金÷1ヶ月平均所定労働時間

これで残業代計算のうち一番のポイントである「1時間あたりの賃金」を求めることができました。次に割増率をどのように決めるのかを説明していきます。

 

残業時間に種類があって、種類ごとに割増率が異なる?

また残業時間には、種類がありますのでしっかり押さえておきましょう。残業時間の種類によって割増率を変えていきます。また割増率は法律上○○%以上を支払ってくださいと書いてあるだけなので、法定以上の割増額を払っても問題ありません。

所定外労働時間(法定内残業時間という場合もあります!):割増率は0%

雇用契約などで定めた時間を超えて労働をしたが、法定(1日8時間、1週間40時間)のルールを超えてはいない部分の労働時間のこと。

法定外労働時間(法定外残業時間という場合もあります!):割増率は25%

法定(1日8時間超、1週間40時間超)のルールを超えた部分の労働時間のこと。

法定休日労働時間:割増率は35%

法律では1週間に1日は休日をもうけなさいよ!と決めてます。その1日に出勤した場合の労働時間のこと。

深夜労働時間:割増率は25%

法律では22:00〜翌5:00までに働いた部分の労働時間のこと。

法定外深夜労働時間(法定外労働時間かつ深夜労働時間という場合もあります):割増率は50%(深夜25%+法定外25%)

法定外労働時間であり、深夜に働いた部分の労働時間のこと。

法定休日深夜労働時間(法的休日労働かつ深夜労働時間という場合もあります):割増率は60%(深夜25%+休日35%)

法定休日労働時間であり、深夜に働いた部分の労働時間のこと。

60時間を超える残業時間:割増率は50%

法律では月の労働時間が60時間を超えた部分については特別高い割増率で計算することを要求しているので、分けて管理します。ただし、一定の規模よりも小さい中小企業については、この規定は適用されません。一定規模より小さい中小企業とは、資本金・出資総額または常時使用労働者数が下記の表の数値の場合です。ご参照ください。

業種資本金・出資総額常時使用労働者数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
上記外の業種3億円以下300人以下

またこの60時間超の労働時間に対して、代替休暇という制度があります。代替休暇とは、延長して労働させた時間が60時間/月を超えた場合に、その時間の労働について5割以上の割増率で計算した賃金を支払う代わりに、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(代替休暇と言います)を与えるという規定を作った上で、その代替休暇を取得した場合には、割増賃金を支払う必要はないとする規定です。

この規定の詳細は次回以降の記事で説明していきます。

 

残業時間の丸め・切り捨て処理の注意点

1日の残業時間を5分単位で切り捨て処理をしたりすることは法律で禁止されています。労働者にとっては残業時間が1分でもあれば、残業時間として申請することができます。ただし、1ヶ月間の労働時間の集計を行った時に残業時間に分単位の時間が発生した場合には、30分未満を切り捨てして、30分以上は切り上げても問題ありません。

例えば、残業時間の1ヶ月の合計時間が10時間12分だった場合には、30分未満なので、12分を切り捨てて、10時間の残業時間として給与計算を進めても問題ないです。一方で10時間31分の場合には、切り上げを行って11時間の残業時間として給与計算を進めても問題ありません。

 

残業代をめぐる計算要素のまとめ

さて、ここまで見てきた項目ごとの考え方をしっかりと行えば残業代を算定することができると思います。改めて、整理すると今回の記事では下記の計算式をじっくりと見てきました。

残業代=1時間あたりの賃金×割増率×残業時間

実際の実務ではこの計算式をベースに、細かい規定に注意しながら、残業代を計算していきます。また今回は説明していませんが、フレックスタイムや変形労働時間制など少し特殊な仕組みを使っている会社さんの場合には違う考え方も必要になりますので、また次回以降に説明していきます。

最初に専門家の方を交えて、法律を守ることができて、自社の働き方に適する就業規則を作り込めば、とりあえずその通りに計算していくことで問題は起こらないと思います。もちろん、就業規則は定期的に見直して会社の実態に応じて変えていくべきものですので、その都度法律に反してないかチェックしてみてください。

長くなってしまいましたが今回は残業代・割増計算のお話でした。今後とも給与計算を初めて行う方向けになるべくわかりやすい説明を心がけていきますので、どうぞよろしくお願い致します!