初めての給与計算入門|#7新人労務担当者が知っておくべき住民税の仕組みと基礎知識

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

給与計算をする上で、住民税は常に重要な項目です。従業員の情報を正確に把握して、市区町村に情報を伝えて、さらに市区町村から送られてきた情報を正しく受け取って、税金を納付していくという業務が必要です。住民税の仕組みを理解して、給与計算と年末調整、納付の関係性を整理していきましょう。

住民税とは

住民税とは、各都道府県がその都道府県に住んでいる人から集める都道府県民税と、各市町村がその市町村に住んでいる人から集める市町村民税(東京23区は特別区民税)の総称です。住民税は住民である「人」に対して課税されるだけではなく、「法人」にも課税されています。今回は給与計算に関係のある住民税だけを紹介したいので、法人住民税の説明は割愛します。

この住民税は何に使われるかというと、まさに住民のためです!住民税を集めた市区町村や都道府県は、住民のためにサービスを提供していきます。ゴミ処理や防災など様々なサービスを運営するためにそのお金を使っているのです。

また個人に対して課税される住民税にも2種類の税金があります。 それが「均等割」と「所得割」です。「均等割」とは、その名の通りみんなに均等に課税される税金のことです。一方で「所得割」は、所得の金額に応じて負担割合が違う税金のことです。

住民税の納付義務

住民税は原則として、1月1日時点で市区町村に住所がある方を前年の所得から計算された税額の納税義務者として取り扱います。1月2日に別の市区町村に転入していても、1月2日以降に出国したり死亡した場合であっても、1月1日住所の市区町村に納付をしていきます。また1月1日に市区町村に住所がなくても事務所や家屋がある人も納付義務が発生します。

ただし以下の方は均等割・所得割の両方について納税義務はありません

・生活保護を受けている場合
・障害者、未成年、寡婦に該当し、所得が125万円以下の場合
・所得金額が市区町村の定める金額以下だった場合

また以下の方は所得割の納税義務はありません

・控除対象配偶者や扶養親族がいて、所得が(控除対象配偶者+扶養親族+1)×35万円+32万円以下の場合
・控除対象配偶者や扶養親族がいなく、前年の所得が35万円以下の場合

また以下の方は均等割の納税義務はありません

・所得金額が市区町村の定める金額以下だった場合

 

住民税の運用の流れ

住民税がどのような仕組みで運営されているのかを簡単にご紹介します。まず、会社は毎年1月31日までに従業員の前年の給与情報を「給与支払報告書」という書類にまとめて、各従業員が住んでいる市区町村に送ります。

各市区町村には税務課という部門があるので、そこの担当者の方が、「この人は去年はこれくらい給与をもらっていて、保険料や家族構成はこんな感じなんだ。じゃあ今年の住民税額はこれだな」という感じで計算をします。

そのあと市区町村の税務課の方は、税額の計算結果を「特別徴収税額の決定通知書」という書類に記載して会社に送ってくれます。この書類に今年の6月から翌年5月までに徴収すべき税額を記載してくれているので、給与計算ではその金額分を徴収していくことになります。

会社側では、決定通知にしたがって毎月住民税額を徴収して、徴収した日の翌月10日までに納付を行います。10日が土、日または祝日の場合は、その翌営業日が納付期限となります。

ただし、所得税と似ている特例があります。給与の支払いを受ける人が常時10人未満の給与支払者で、「市・県民税特別徴収税額の納期の特例に関する申請書」を提出し、承認を受けた場合には、6月分から11月分までを12月10日まで、12月分から翌年5月分までを翌年6月10日までの年2回に分けて納入することができます。

 

住民税額の計算方法

先ほどお伝えしたとり、住民税の金額は市区町村の税務課の方が頑張って計算してくれるので、労務担当者の方が詳しく知っている必要はないかもしれません。ただし、住民税額が何によって決まるのかを理解しておくことで、従業員の方にアドバイスをしたり、根拠を持って資料の依頼ができますので、整理しておきましょう。

STEP1 給与所得額を調べる

給与所得の計算方法は簡単です。年間の給与等の金額をまずは計算してください。源泉徴収票の「支払金額」という項目のことですね。その金額を下のテーブルに当てはめると給与所得控除額がわかります。

【計算式】

給与所得額=支払金額-給与所得控除額

給与等の収入金額

(給与所得の源泉徴収票の支払金額)

給与所得控除額
1,800,000円以下収入金額×40%

650,000円に満たない場合には650,000円

1,800,000円超3,600,000円以下収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超6,600,000円以下収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超10,000,000円以下収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超2,200,000円(上限)

STEP2 所得控除の額を計算する

住民税ではその人の状況に応じて公平に課税をする考え方が採用されているので、扶養している親族の状況や生命保険料の支払状況によって税金を調整しています。そのため、状況に応じた所得控除を検討していきます。

控除できる項目は下記の通りです。

1,雑損控除次のいずれか多い額

(1)損失額(保険金などの補填額を除く)-総所得金額等×10%

(2)災害関連支出の金額-50,000円

2.医療費控除(控除限度額は200万円)28年中に支払った医療費(保険金等の補填額を除く)-総所得金額等×5%(10万円超のときは10万円)
3.社会保険料控除前年に支払った額
4.小規模企業共済等掛金控除前年に支払った額
5.生命保険料控除(合計限度額は7万円)一般の生命保険料:

(平成23年以前加入)は最高35,000円(平成24年以後加入)は最高28,000円

介護医療保険料:

(平成24年以後加入)は最高28,000円

個人年金保険料:

(平成23年以前加入)は最高35,000円(平成24年以後加入)は最高28,000円

6.地震保険料控除最高25,000円
7.障害者控除本人・控除対象配偶者・扶養親族(一人につき)26万円

特別障害者の場合は30万円

控除対象配偶者又は扶養親族が同居の特別障害者の場合は53万円

8.寡婦(夫)控除(所得要件あり)本人が寡婦又は寡夫の場合26万円

ただし、特定の寡婦(前年の合計所得金額が500万円以下で扶養親族の子がいる場合)は30万円

9.勤労学生控除(所得要件あり)本人が勤労学生 26万円
10.配偶者控除(いずれも所得要件あり)(1)一般の配偶者は33万円

(2)70歳以上の配偶者は38万円

11.配偶者特別控除(所得要件あり)最高33万円
12.扶養控除(いずれも所得要件あり)(1)一般の扶養親族(16歳以上19歳未満、23歳以上70歳未満)は33万円

(2)特定扶養親族(19歳以上23歳未満の扶養親族)は45万円

(3)70歳以上の扶養親族は38万円

(4)70歳以上の同居の親等は45万円

13.基礎控除33万円

STEP3 課税対象所得額を算出する

STEP1で算出した「給与所得額」からSTEP2で算出した「所得控除額」を差し引くことで、課税対象所得額を算出することができます。

【計算式】

課税対象所得額=給与所得額-所得控除額

STEP4 調整控除額を算出する

住民税と所得税の税率が改正され、住民税が増えた分は所得税が減るといったように住民税+所得税の税率は税源移譲の前後で変わらないのですが、住民税と所得税では人的控除額に差があるために、同じ所得金額でも所得控除後の課税所得金額は住民税の方が大きくなり、税率が変わらないように措置されただけでは住民税の方が税額が多くなります。この負担増を調整するために、平成19年から調整控除というかたちで減額措置が設けられています。

(1)住民税の課税対象所得金額が200万円以下の人

1.と2.のいずれか小さい額
1.人的控除の差の合計×5%
2.住民税の課税所得金額×5%

(2)住民税の課税対象所得金額が200万円を超える人

{人的控除額の差の合計額-(住民税の課税所得金額-200万円)}×5%

ただし、この額が2,500円未満の場合は2,500円とする。

 

STEP5 住民税率を乗じる

最初に説明した通り、住民税には「都道府県民税」と「市区町村民税」があり、さらにそれぞれについて「均等割」と「所得割」があります。それぞれ計算式と税率が違います。

所得割均等割
市区町村民税課税額×6%自治体が設定した額
都道府県民税課税額×4%自治体が設定した額

整理すると住民税の金額計算式は下記のようになります。

【計算式】

住民税額=市区町村民税+都道府県民税-調整控除額

上記計算によって、1年間で納めるべき住民税額が算出されます。労務担当者はその結果を「税額決定通知書」で受け取って、給与計算を回していくことになるのですね。以上で住民税のお話は終わります。

そして今回の住民税の説明をもって、給与計算入門シリーズは終了となります。次回は給与計算中級編と題して、従業員持株会や財形貯蓄制度、互助会などの運営などにも言及していきたいと思います。入門編をお読みいただいたみなさま、本当にありがとうございました!引き続きどうぞ宜しくお願いいたします!