男性も1ヶ月育児にフルコミット!育児用品メーカーのピジョンで「ひとつきいっしょ」など育児関連制度について聞いてきました【前編】

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

ピジョン 若山様

育児用品、マタニティ用品をはじめとして、保育、介護サービスまで提供するピジョン株式会社。同社の育児に関する人事制度について、人事総務本部・人事総務部・人事グループの若山直樹マネージャーにお話を伺いました。「さすが育児用品市場のリーダーだ」と勉強になる事必至です。なお、今回はお話の前編部分です。>後編はこちらから
 
 

では最初に、従業員構成などで特徴的な点があれば教えてください。

当社は、育児関連の商品・サービスを提供しており、おかげさまで昨年60周年を迎えることができました。育児関連の会社なので、ひょっとしたら女性従業員が多いと思われるかもしれませんが、実はピジョン株式会社に本籍を置く正社員の数を見ると女性3割、男性7割の従業員構成です。
 
 

人事諸制度の根本原理などがあれば教えてください。

人事としてやれることは何か。当社の基本的な考えは、「Pigeon Way」に集約されています。当社の使命は『(経営理念の)「愛」を製品やサービスの形にして提供することで、世界中の赤ちゃんとご家族に喜び、幸せ、そして感動をもたらすこと』と掲げています。その使命を成しとげるためには当然モノやお金、情報といった経営資源も必要ですが、それを実行するのは「人」です。その「人」―つまり社員が働きやすく、活き活きと仕事ができる環境づくりを目指して、人事制度を考えています。
 
 

経営理念は「愛」なんですね。

はい、採用時の会社説明会などでも「愛ってなんですか?」という質問が学生からきますが、我々は「人が人を大切にする心」と答えています。経営理念の「愛」、そして社是「愛を生むのは愛のみ」、社員一人ひとりが大切にする3つの「価値観」があり、そして社員のすべての行動のベースとなり、ガイドとなる5つの「行動原則」があり、それらを「Pigeon Way」としています。
 
 

男性社員も利用しやすい育休制度「ひとつきいっしょ」について教えてください。

これは2006年に立ち上げた育児休職制度です。その時代はまだ、男性の育児参加は珍しく、もちろん「イクメン」なんて言葉もありませんでした。男性が育児休業を取得すること自体がかなり異色だと考えられていました。実は、当社もそれまでは男性の育児休業取得率は0%でした。
 

なぜ男性の育児参加に着眼したかといえば、当社の事業と親和性が高いからです。男性の場合、育児を手伝っているつもりでも、わかっていないことがいっぱいあります。例えば育児の楽しさ、大変さ、喜び。そういったものを味わえる瞬間は、育児をしているその一瞬にしか味わえない、体感できないことが多いです。ですので、男性社員も女性社員も分け隔てなく、育児というものに参加することで、人としても成長できるのではないか。そう考えて、男性社員も取得しやすい育児休職制度をつくりました。
 

制度を作った当時、休職期間の長さをどうするか、1週間がいいのか、2週間がいいのか、色々と検討しました。でも1〜2週間程度の育児休職では、付きっきりの子育ての大変さに関して分かるものもわからないだろうと。でも2ヶ月間休むとなると、現場を離れる不安感が社員にとって大きくなるのではないか。そう考えて、1ヶ月と決めました。
 

当時はまだ女性の社会進出という言葉を聞くことも殆どなく、「男性は一家の大黒柱だ」という意識が世間でもがありましたので、経済的な補償をどうしていくのか、また制度そのものが形骸化しないような工夫も考えました。「親しみのある制度に育てていきたい」ということで当時の人事の制度担当者が、『社員から制度名を公募しよう』と企画し、それにより「ひとつきいっしょ」という名称が誕生しました。これが例えば「1ヶ月休職コース」等の名称だと固いですからね。
 

公募する過程で、制度について社員の認識も深まりますし、名称が決まったら今度は「○○さんが考えた名前だ」と親しみを持って、制度利用へのハードルも下がるのではないか―そのようなことをねらっての企画でした。
 

そのような工夫に加え、人事としては積極的な普及や発信も行いました。
 

私自身も、長男が2005年に生まれたので、2006年の制度開始後2人目の制度利用者になりました。
 

2人目の取得者なので、外部からの反響はさほど無いだろうと思っていたのですが、思った以上に反響があって、NHKさんを始め、いろいろなところから取材を受けました。
 

休み中、近所の方にお会いした時、向こうからは「話しかけたいのだけど、話しかけづらい」という雰囲気を感じました。きっと「あのうちのご主人はなんで家にいるのかしら?」と思われていたんでしょうね。最初の1週間くらいは、私もどういう立ち位置で子供の保育園のお迎えに行っていいのやらという感じだったのですが、その後だんだん慣れてきて、育児休職をしていることを説明したら、ママ友やご近所の方や先生と普通にお話できるようになりました。
 

1人でも多くの男性社員が育児休業を取り、取得した社員が「こういう良いことがあった、こういう感覚を味わえた、この体験は一生忘れない」という想いを社内に広げていく―これが一番効果がある情報発信や普及に繋がると思います。
 

その他に当社では『育児レポート』というのがあります。今日はサンプルも持ってきたのですが、(一番上を指さして)これは、私の3人目の子供の時のものです。
 

 

この(写真にある)育児レポートは、当社の目標管理制度(MBO)の中にも含まれていて、育児休業を取得した社員に限らず、子供が生まれた社員全員に対して義務付けており、育児を仕事の成果としてこのレポートを提出する必要があります。
 

社員はそれぞれ、家庭環境のことを書いたり、認可保育園に入れずそのために何を工夫したのかを書いたり、はたまた男性社員は男性の立場からどのように育児をして、どのようなところが印象に残って、どういうところを今後変えていかなければならないのか、などを自由に作成します。そしてこのレポートは人事担当役員が評価します。
 

さらに、これは自分自身の想い出にもなります。私の場合も子供が二十歳くらいになったら見せてあげようと思っていますし。またこれから妊娠・出産・育児をする後輩ママさん、パパさんたちへのアドバイザリー資料にもなりうるものなのです。
 
 

(レポートの内容を拝見して)これは圧巻ですね。なかなか育児についての論理的なレポートを、ビジネスパーソンが書く機会は一般的には無いですよね。

 

そう思います。書いてみると、「あんな事があったな〜」と、忘れている事が多くあると気づきます。だから振り返りにもなりますし、今の自分への戒めにもなります。色々な意味で良い仕組みなのではないかと思っています。
 
 

実際に書いてみて、一般のブログ記事との違いを感じたことがありますか?

 

私の場合、子供が1歳6ヶ月になるまでの間に育児休業を取得しようと考え「せっかく育児休職をとるのだから、1ヶ月の育児休職中にこれだけはやる」という目標を立てて実行しました。ですので、その日に起こったことを連々書くというより、その目標を達成するために父親としてどのようなアクションをすればいいのか、どういう風に子供と接していくべきなのかを考えながら行動し、それをレポートにまとめました。
 

もちろん、ブログに近い内容もありますが、テーマを持って社員みんながそれぞれの内容で書いており、非常に面白いですよ。みんな我が子のことなので魂を入れて書いているのが伝わってきます。
 

みんなが真剣に書いたこの「育児レポート」が、毎年十数作ずつあり、10年以上蓄積していますので、いまとなっては100作以上あります。これは会社の「財産」だと思います。
 
 

この制度を取得した、一人目の男性社員の方について教えてください。

 

一人目の取得者は、バックオフィス系部門の所属で、もともと「ひとつきいっしょ」の制度が無くても、育児休業をとりたいという想いの強い者でした。そして制度ができた時にすぐ手を挙げて「取得します」と言ってくれました。
 
 

その方も1ヶ月取得されたということですか?

元々「もっと長く育児休職をとりたい」といっていました。制度としては「ひとつきいっしょ」コースがありますが、その延長という形で、一般的に女性が取得する最長1歳6ヶ月までの法定の育児休職制度があり、男性が取得してももちろん良いことにはなっています。ただしその法定の育児制度期間については、法令に沿った内容となり、弊社独自の所得補償などのプラスアルファの要素はありません。結果的にその社員が「ひとつきいっしょ」の取得者の第1号になったのです。
 


 
 

「ひとつきいっしょ」制度の所得補償は、どのようになっていますか?

1ヶ月の半分を会社の特別有給休暇と位置づけ、その部分は会社が無条件で付与します。残りの半分は、当社は元々失効年休が積み立てられる仕組みになっているのですが、その失効年休で充当する仕組みとなっています。そうすると、100/100が補償された休業が実現します。ちなみにこの場合、育児休業中のため社会保険料も免除になりますから、通常の給与の手取り金額よりも多くなるかと思います。
 

若手社員の場合は、勤続年数が短いため失効年休がなかなか溜まっていないケースが多いです。その場合は、雇用保険からの給付で補う設計にしています。トータルで考えれば、会社からの特別有給休暇に加え、育児休業給付金と社会保険料の免除をあわせて、通常の給与とほぼ変わらない手取りを確保できることになります。
 
 

以上で前編終了です。<後編はこちらから>
 
 

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『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。