男性も1ヶ月育児にフルコミット!育児用品メーカーのピジョンで「ひとつきいっしょ」など育児関連制度について聞いてきました【後編】

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部

【前編】に引き続き、インタビューの後編をお届けします。
 
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それにしても、1ヶ月というのはすごいですね。多くの企業では、男性が育児休業するといっても数日というケースがほとんどだという印象があります。

先日、日経BP社さんが発行されている「日経DUAL」の『共働き子育てしやすい企業2017』で特別奨励賞をいただいたのですが、そこでもご評価いただいたのは、2週間未満の育児休職が0%で、男性の育児休職取得者の全員が1ヶ月間取得し、取得率が100%であるという点でした。
 

1ヶ月の取得というのはなかなかできるものではないと思います。
 

でも、1ヶ月間べったり育児に携わらないとわからない事が多いです。私個人の意見ですが、育児の大変さは分かっていたつもりでしたが、1ヶ月間実際に一緒にいて感じるのは「やっぱり長い時間一緒にいるのは違い、想像していた大変さや喜び、幸せを大きく上回るものだった」という事です。
 
 

朝保育園に送っていったり、夜お風呂に入れたりといった、断片的なルーチンを担当して、育児をわかったつもりになっている男性は多そうですね。それに対して、1日を通してフルコミットの30日間というのはすごいですね。

はい。だから一生忘れないと思います。
 

当時一歳になる息子の私を見る目が変わりました。私自身も気付けることがいっぱいありました。『いまウンチするかな?したかな?』というのが、顔つき一つで分かるようになりました。あとは、そんな生活を日々送っていると、うちの家内は当時専業主婦でしたが、『一人で毎日こんなに大変な想いをして育児していたんだ』という家内に対する感謝の気持ちが強くなりました。
 
 

休職中に、会社とのコミュニケーションはあるのでしょうか?

基本はありません。休職は仕事が免除されている期間なので、仕事はしてはいけないことになります。
 
 

一ヶ月後、戻ってきた時の社内の反応はどのような感じですか?

最近の状況でいえば、子供が生まれたらみんな取得することがわかっているので「おかえりなさい」という雰囲気です。私がいまでも覚えているのは、復職した日がちょうど自分の担当していた仕事の締め日で、机の上に「若、おかえり。今日一日頑張ってね。人事一同」と書かれていたのを覚えています。笑
 

所属長含め、この制度に対して、休暇をとる社員本人が前向きで、後ろ髪をひかれながら休みをとるのではなく、復職してきたときも引け目を感じることなく戻れるようにする―そういう心配りや雰囲気作りを各部門長がやっていますので、社内の反応は全く問題ないと考えています。
 
 

既に何名くらい取得されているのですか?

制度発足から今まで、正社員のみの累計で男性社員が55人、女性社員で29人取得しています。のべ人数なので、第1子でも第2子でも取得している社員は、1人の社員でも2人とカウントしています。
 

当初は、当社のみならず世間的にも育休を取得する男性社員のロールモデルが少ないこともあり、育児休暇の取得の心得「ひとつき取得心得7ヶ条」を出しました。
 
 


 

ここでは「育児休職なのだぞ、しっかり育児をして世に示せ。遊びで過ごす1ヶ月ではない」ということを謳っています。
 
 

今後、この制度について改善したいポイントはありますか?

男性社員の場合は、この「ひとつきいっしょ」の制度のみを利用して1ヶ月で復職するのですが、女性社員は通常育児休職を取得しますので、長期休業になればなるほど、復職時の不安感が大きくなると思います。
 

これは復職前面談のときにも感じます。そのような意味で、主に女性社員を対象に、復職後の不安や、妊娠中の不安、出産に対する不安、育児休職中の不安を払拭できるようにするため、「ワーママネットワーク」のような、ある種のメンター制度をつくりたいと思っています。そういった不安を少しでも取り除いて、社員同士、先輩ママがいろいろアドバイスし、それをうけて育児をして、アドバイスを受けたママ社員がまたその後輩ママに受け継いでいけるような仕組みづくりを現在進めているところです。
 
 

それでは次に、労働時間の削減についての考え方を聞かせてください。

当社では19時退出ルールというものがあります。これは19時以降は原則会社に残ることを禁止するというものです。
この制度の導入の目的は、残業時間を削減することではありません。時間を意識して働き、生産性をあげることが目的です。生産性をあげて働く時間を圧縮することで、アフターファイブをより充実してもらい、ワークライフバランスを推奨したい、というのが考え方の起点です。
 

一番注意しているのは、「社員に対し『残業削減のためでは無い、時間を意識して働いて欲しい』ということをしっかり伝えること」です。例えば、いままで夜の8時までかかっていた仕事も、7時までに帰らなければならなくなったら、どういうプロセスでその仕事をまわしていけば7時までに終わるのか、社員それぞれが仕事のやり方・効率を考えなければいけません。
 

社員側も、最初は「そんなの無理だよ」という雰囲気がありましたが、案外やってみると、いままで22時までいたのが19時に帰るのがあたりまえになりましたし、19時退出ルールを導入したからといって売上・利益が落ちたかというとそれは無く、おかげ様で順調に増収増益をしております。
社外からは取組として「働きやすい、早く帰れる会社だ」と捉えられますが、一方で、このルールは社員一人ひとりにとっては厳しく、いかに仕事の効率を考えて終わらせなければいけないか、終わらなかった場合には仕方なく残業するのですが、その時は所属長だけでなく本部長まで承認をもらった上で残業しなければいけないルールなので、社員にとっては「早く帰れる」一方で、仕事のプライオリティを考え、タイムマネジメントやセルフコントロールをしっかりやっていかないと、自分自身が追いついていけなくなることになります。
 
 

いまのお話をお伺いしていて、女性で育児や介護を仕事と一緒にやっている方が、そういう状況になって、時間管理がうまくなったとか、意識したとか、そういう事をよく仰っているのとの共通点を感じました。

その通りだと思います。実際に育児休業をしていた女性社員がいて、その社員の所属長とたまたま話す機会があったのですが「すごいね、やればできるんだね」と言っていました。つまり時間的制約がある中で、仕事のボリューム(担当割)をどうするか考えていたようなのですが、「やはり終わりの時間が決まっていると、逆算して能動的に計画するようになるんだね」という話を聞いたことがとても印象に残っています。
 
 

次に、在宅勤務制度について教えてください。

現在の制度では、育児、介護を理由とした場合の他、会社が認めた場合に利用を認めています。実は今ちょうど管理部門を中心に取り組んでいる最中なのですが、今お話しした利用者の枠を取り払って、利用要件を拡大出来ないかと考え、そのための課題の洗い出しを目的としたトライアルを実施しています。
 

現在の在宅勤務制度のルールは、1週間に1度は出社をすること。そして月の在宅勤務の日数は10日を上限とすることの2点です。
 
 

在宅勤務は、マネジメントが難しいと良く聞くのですが、そのあたりはいかがですか?

仕事の進捗確認については、社員がタスク表のようなものを事前に作成し、所属長がそれを確認します。在宅勤務で1日終了したあとは、またそのタスク表で進捗を確認するといった運用です。
 

あとは、なんといっても上司・部下の信頼関係がきちんと構築されていないと、在宅勤務制度はなかなか成り立たないのではないか、と思っています。
 

当社の「Pigeon Way」の中の「基本となる価値観」の一つに「コミュニケーション・納得・信頼」というのがあります。まさに上司・部下の間で信頼レベルで仕事をしていれば、物理的に場所が離れていても、部下が今日はこの仕事をしているのなら、こういう内容・レベルの資料が出来あがってくるだろうということが大体分かります。そのためやはり日頃のコミュニケーションによって培われる信頼関係が大切だと思います。もちろん、基本的な制度上のルールやセキュリティ面も大事なのですが、最終的には、人と人との信頼関係が一番大事だと思います。社員や部下を疑っての制度ではなく、性善説で制度設計をしています。
 
 

他に何かあれば、力を入れていることがあれば、教えてください。

たとえば法改正や世間で求められる女性の活躍推進、女性の管理職比率向上などを追いかけるという意識はあまりありません。
 

法に抵触しないのを前提に、「本当に社員が働きやすい環境はどういう環境なのだろう?どういう制度があったら、社員はより生産性を上げて、よりいきいきと働けるのだろうか」という視点で施策づくりを進めています。
 

例えば3年前に作った制度で「ライフ・デザイン休暇休職制度」というのがあります。これは不妊治療のための休暇・休職制度です。
 

妊娠して子供を授かって、育児するというプロセスを、当たり前だと感じている人も多いと思うのですが、実は世の中には不妊に悩んでいる方がかなりの割合でいるのです。当社にも不妊治療に専念したいという理由で退職した社員が過去にいました。
 

そのため「不妊治療に専念でき、且つ社員の身分も保証してあげられるような制度を作ろう」ということで、この「ライフ・デザイン休暇休職制度」を作ったのです
最初は「妊活休暇」とか、いろいろネーミングも考えたのですが、最終的に「ライフ・デザイン休職」としました。
 
 

すごくデリケートな話題で、すごく難しいですよね?

はい、難しいです。ただ、実際2015年にこの制度を立ち上げてみたら、手を挙げる社員もいて現時点で制度利用者はのべ3名です。もともと不妊で悩んでいた社員が、この休職制度を利用して無事に妊娠・出産しました。既にひとりは職場復帰し、もうひとりは育休中です。
 

妊娠して会社に連絡をくれた時や本人と面談をした時は、本人ももちろん喜んでいますし、こういう制度をつくって良かったなあと、人事のメンバーみんなが思いました。
「ライフ・デザイン休暇休職制度」は、在籍している間に最長2年間使えます。分割して1年を2回使ってもいいですし、1回で2年使ってもいいという仕組みです。
 

2年間「ライフ・デザイン休職制度」を利用し、その後無事妊娠・出産して育休も1年取った場合、結果3年間ブランクが出来たとしても、長い社会人人生を考えた時に、「3年なんてどうってことないよ」と、そういう想いで制度を作りました。
 

それよりも、社員は会社員ではあるけれども、一方で誰もが家庭人でもあるので、人の人生を考えた時に、やはりその時仕事を優先するのか、ライフイベントを優先するのか等プライベートとのバランスをどうしたいか、という考えは誰しもあると思います。不妊治療となりますと年齢のことも関係してきますし、最後のチャンスかもしれないと思う社員もいて、そこは尊重したいと思います。当社のような育児に関わる事業をしている会社なので、そこはより強く思います。
 
 

すごいですね!

もちろん、少数精鋭でやっておりますので、その部門や同僚は大変だと思います。でも、そこを受け入れられる雰囲気は、各社員が持ち合わせています。
 

「なんとか力になってあげたい」と周りも思いますし、それがもし妊娠・出産に結びついて、育児しながら仕事をするということになれば、またそれはひとつの良い事例として、後輩ママさんたちにいろいろなことを伝えていってもらえますよね。そういう良い循環をしながら、制度が形骸化しないようにしていきたいと思っています。
 
 

【編集後記】

「ワークライフバランス」は、仕事と生活のバランスと訳される場合が多いですが、ピジョンで若山さんのお話を聞いた後に、本来は「仕事と人生のバランス」と訳すべきなのではないかと思いました。長い人生の中で、仕事をどう位置づけるのか。育児用品市場のリーダーとして、ピジョンは先進的な挑戦を続けているのだと感じました。
 
 

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『人事労務の基礎知識』編集部
『人事労務の基礎知識』編集部
株式会社BEC内で、Gozal(ゴザル)の編集制作を担当する部門です。社会保険労務士/弁護士/税理士などの専門家執筆陣とともに、中小企業の労務・給与計算担当の方が実務上感じる不安を払拭できるよう、情報発信しています。「こんな記事を読みたい!」とTwitterやFacebookでメッセージいただければ、可能な限り執筆いたします。