振休と代休の違いと注意点|契約解除0社労士・寺瀬学の「人事労務相談BEST5」 [最終回]

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

振休と代休の違いと注意点|契約解除0社労士・寺瀬学の「人事労務相談BEST5」 [第5回]

みなさんこんにちは。S&Tプロフェッショナル社会保険労務士法人の寺瀬学です。
 
人事労務でご相談の多いトピックをご紹介するシリーズ。最終回(5回目)のトピックは「振休と代休の違いと注意点」に関する相談です。
 

契約解除0社労士・寺瀬学の「人事労務相談BEST5」目次

  1. 休職期間満了時に関する相談
  2. フレックスタイム制導入の相談
  3. 休職の従業員が復職後また休職。期間はどう通算する?
  4. 副業で働いた時間も通算?労基法38条との関係
  5. 振休と代休の違いと注意点

 

誤解が多く、未払賃金のリスクもある振休と代休

シリーズ最終回のトピックとして、振休と代休を取り上げることについて、一見地味なトピックと感じられるかもしれません。
 

ところが、この振休や代休について、顧問先のご担当者から、同じような内容のご相談が寄せられ、そして、多くの方々がその取扱いについて混同または誤解されていることが多いです。
 

さらに振休や代休の取扱い如何によっては、未払賃金が発生するリスクもあります。
 

さまざまに寄せられるご相談の一例として、次のようなものがあります。

  • 「振休を与えれば休日残業代は支払わなくてもよいか」
  • 「1ヵ月以内に代休を取得しない場合には消滅させてもいいか」
  • 「休日に半日勤務させたが『振休』を0.5日分与えればよいか」
  • 「退職時に未取得の代休について清算を求められたが応じなければならないか」

 

こうしたご相談をいただく背景には、振休と代休とを混同していたり、または振休や代休を与えれば残業代の支払いは生じないといった誤解等が原因にあるように思います。

振休と代休の違いについて

 
そこで、まず振休と代休の違いについてみてみることとします。
 

振休代休の簡易説明図

そもそも振休は、休日の振り替えにより発生する休日をいいます。そして、振り替える場合には、あらかじめ振り替える日を特定しなければなりません。

 

具体的には、休日であった日(X日)と他の勤務日(Y日)と振り替えた場合、もともと休日であった日(X日)は勤務日となり、勤務日であった日(Y日)は休日となります。そしてこの振り替えた後の休日(Y日)が振休ということになります。
 

一方で、代休は、休日に勤務させた代償として他の勤務日に休ませること(またはその日)をいいます。
 

上記の例に当てはめれば、休日(X日)に休日勤務させた代償として、勤務日(Y日)に休ませるということになります。
 

その違いは、休日を振り替えた(振休が発生する)場合には、もともとの休日に勤務させても、その日は勤務日になっていますので休日勤務とはなりませんが、代休の場合はその日は休日のままですので休日勤務となります。
 

なお、ご相談に際し「未取得の『振休』があって・・・」という話を受けることがありますが、振休は、事前に振り替える日を特定することが前提になっているために、振休が未取得とはなり得ず、その「振休」は実質的には「代休」です。

振休に対する誤解

先述のとおり、休日を振り替えた場合には、休日勤務にならないということから、割増賃金は発生しないものと理解されている方が多いですが、必ずしもそうとも限りません。
 

といいますのも、休日を振り替える場合でも、労働基準法で定める「週に1回または4週で4日以上の休日」(同法第35条)を確保することが前提となります。
 

もし、週1回または4週で4日以上の休日を確保できない形で休日を振り替えてしまうと、その日は休日勤務として割増賃金の支払いが必要となります。
 

また、週1回または4週4日以上の休日を確保して休日を振り替えたとしても、もともとの休日に勤務した結果、その週の労働時間の合計が40時間を超えるようであれば、超えた分は時間外勤務となり、割増賃金の支払いが必要になります。
 

そこで、顧問先からは、振休の場合には割増賃金が生じないルールを作りたいというご要望を受けることがありますが、その一つの方法として、休日の振り替えは同一週内の勤務日と振り替える場合のみに限定することが考えられます。
 

同一週内に振り替えることとすれば、週1回の休日は確保できますし、その週の所定労働時間の合計も40時間以内となるためです。

代休の意義と問題点

次に代休についてですが、その意義は、休日に勤務させた代償として勤務日の勤務を免除するものですが、賃金の面からみますと、休日勤務によって割増賃金を含む休日残業代が生じる一方で、勤務日の勤務を免除した結果、欠勤控除を行うということになります。
 

したがって、その休日残業代と欠勤控除額が見合うのであれば、相殺してチャラ、ということになりますが、割増賃金が発生していれば、少なくともその分は相殺できないことになります。そして、相殺できない分は賃金として支払う必要があります。
 

そのため、休日勤務によって発生した代休をしっかりと取得させていたとしても、相殺できずに賃金が未払いとなっている可能性が高いといえます。
 

また、未取得の代休がたまってしまっているといった話もよく聞かれます。
 

代休を取得させた場合には、相殺できない分(おおむね割増賃金(25%/35%)相当)が未払い状態となる可能性があるわけですが、代休を取得させていない場合には割増賃金を含む残業代(125%/135%相当)が未払いとなるもので、そのインパクトは大きいです。
 

つまり、未取得代休=未払賃金として、強く認識する必要があります。

代休を与える場合には、その管理・運用をしっかりと

実際にご相談があったものですが、IPOを目指す顧問先において、主幹事証券会社による引受審査(上場審査)に際し、この代休の未取得問題が指摘され、影響度の試算及び清算方法についてアドバイスを求められました。
 

先述のとおり、未取得代休は未払賃金そのものですので、賃金の請求時効の2年前から遡って調査する必要がありましたが、その結果、全従業員の平均で約5日、最多で50日に達する従業員もいたため、従業員200名弱の会社ですが未払額として15百万円を超えることが判明しました。
 

ちなみに当該会社では、代休の取得は本人に委ねていたこともあり、代休を取得せずに年次有給休暇を取得しているケースが多くみられました。
 

このように、代休を与える場合には、必ず取得させるための管理や運用が重要といえます。
 

なお、法律上、代休による賃金の相殺は、労基法の賃金の全額払いの原則(同法第24条)に従い、同一給与計算期間内で行わなければなりません(当月発生した休日残業代を、翌月以降の給与で相殺することは認められません)。
 

相殺するためには、代休は休日勤務した日と同一の給与計算期間内で取得させる必要があります。
 

もちろん、相殺しきれない部分についてはきちんと支払う必要もあることにも注意が必要です。

まとめ

このように振休や代休については様々な問題があり、法的に適正な形で運用するためには難しい管理が必要だということがお分かりいただけたかと思います。
 

もし運用に問題がある場合には、これを適正な運用に是正できればそれに越したことはありませんが、現実的には、直ちにこれを是正することは困難な場合もあろうかと思いますので、段階的に改善を図っていることも一法です。
 

その意味においては、まずは、未取得代休が発生しない(または累積しない)運用に改めることが第一です。
 

具体的な方法として

  1. 休日に勤務の必要がある場合には、代休ではなく、休日の振り替えを徹底する。
  2. 代休が発生した場合には代休の取得日を特定し、取得を徹底する。
  3. 代休の取得期限を設け、期限までに取得できない場合には休日残業代を支給して清算する。

 

といったことが考えられるところです。
 

皆さまにおかれては、以上のことを参考に、いま一度、代休や振休の運用状況について確認されることをおすすめいたします。

シリーズ最終回のむすびとして

本シリーズでは、人事労務相談としてご相談を受けることが多いトピックについて、5回にわたりご紹介してまいりましたが、如何でしたでしょうか。
 

シリーズを通してお読みいただくと、ご相談いただく内容に対して、明確に回答しているケースが少ないことにお気づきになるのではないかと思います。
 

ご担当者の皆さまは、さまざまな媒体で人事労務のQ&Aのようなものをご覧になって、原則的な対応策はご存じのことが多いものと思います。
 

しかし、実務に携わっている皆さまにとっては、「法律上適正な運用にしようとすると、現場の業務運営に大きな支障が生じてしまう・・・」、「原則はよく理解しているが、このケースについてはその原則が当てはめられない・・・」、「今までの誤っていた運用を、どんな形で正しい運用に改めればよいか・・・」など、必ずしも原則どおりに対応できずにお悩みのことが多いものと思います。
 

そして、その場合には、各社各様の対応策を講じなければならないことになるわけです。
 

そうしたお悩みを抱えるご担当者の皆さまには、ぜひ私たち社労士をパートナーとして活用していただければと思います。
 

人事労務相談において、社労士が求められる役割は、ご相談いただく内容について、事象を整理して何が問題かを明らかにし(①)、明らかになった問題をどのように解決するかを提案すること(②)です。
 

①は、ご相談に至った背景やいきさつといったところから、幅広く状況をお伺いし、ご担当者が気づいていない事象がないかを確認します。そのうえで、それらが法律や他社状況、社会の一般的状況等に照らして、どのような点で問題なのかを明確にします。
 

②は、明確になった問題をどのように解決するかを、具体的かつ実行可能な対応策として提案します。
 

しかしながら、対応策といっても、必ずしも絶対的なものがあるわけではなく、むしろ絶対的な対応策がないケースの方が多いかもしれません(先述のとおりです)。
 

そのため、パートナーとなる私たち社労士は、顧問先の事業内容や業界におけるポジション、経営スタンス、社風、労使関係等をよく理解し、皆さまと一緒に悩み、議論のうえ、最善策を提案できる存在であるべきと考えます。
 

社労士の活用にあたっては、そのような「パートナー」を見つけていただければと思います。
 

なお、当媒体(バックグラウンドの基礎知識)において連載されている「社労士の横顔」は、社労士の「人となり」までがわかる、パートナー探しに有益な情報源です。ぜひ参考にしていただければと思います。
 

それでは、皆さまの益々のご活躍をお祈りいたして、シリーズのむすびとさせていただきます。ありがとうございました!
 

いつかまた、どこかでお会いできましたら幸いです。
 

契約解除0社労士・寺瀬学の「人事労務相談BEST5」目次

  1. 休職期間満了時に関する相談
  2. フレックスタイム制導入の相談
  3. 休職の従業員が復職後また休職。期間はどう通算する?
  4. 副業で働いた時間も通算?労基法38条との関係
  5. 振休と代休の違いと注意点

 
 

関連する記事