転勤はサラリーマンの踏み絵なのか? 〜労働政策研究・研修機構レポートより〜

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

転勤はサラリーマンの踏み絵なのか?
「転勤」は、企業それぞれの経営判断で広く行われています。組織運営のために重要だとされていますが、一方で転勤によって結婚・妊娠・出産・子育てといった人生設計が困難となり「仕事」か「家庭」の二者択一を労働者が迫られているという指摘もあります。
 

労働政策研究・研修機構は「転勤」について、全国の常時従業員300人以上の企業10,000社と正社員80,000人に対してアンケートを行い、1,852社と5,827人から有効回答を得た『企業の転勤の実態に関する調査』の結果を公表しました。

今回はこの『企業の転勤の実態に関する調査』の結果の一部を紹介します。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構

 

企業側は転勤を社員教育の一貫と考えている

転勤の目的

企業側に転勤の目的を質問(複数回答可)したところ、「社員の人材育成(66.4%)」、「組織運営上の人事ローテーションの結果(53.4%)」、「組織の活性化・社員への刺激(50.6%)」、「幹部の選抜・育成(41.2%)」といった社員教育に関連する回答が上位に目立ちました。
 

転勤のある企業は、3~5年目からが67.2%

新卒者が入社後(初任配置後)、何年目から転勤が生じることが多いか

転勤が発生するのは、新卒者の入社後「4~5年目(36.5%)」、「3年目(30.7%)」からと回答する企業が多いことがわかりました。
 

この結果から、転職のある企業に就業する人は、20代後半からの人生設計が難しくなるだろうと推察されます。

転勤女性の約6割が「未婚」

過去 1 年間で女性の転勤者がいる企業での女性転勤者の未婚者割合

女性の転勤者における未婚者の割合について、「ほとんどが未婚者」の企業が、国内転勤(60.5%)、海外転勤(59.5%)と約6割となりました。

転勤に「満足」した人は約8割

勤経験の満足度

直近の転勤経験の満足度を従業員に質問したところ、国内転勤の場合、満足が78.0%で、不満足の19.5%を大幅に上回っています。

「能力が上がった」と回答した海外転勤者は86%

直近の転勤を経た後の職業能力の変化

直近の転勤を経た後の職業能力の変化を従業員に質問したところ、国内転勤の場合「職業能力が上昇した」と感じる人は75.4%となっています。
 

海外転勤の場合に「職業能力が上昇した」人は、86.5%と高い結果が出ています。

転職を断った男性退職者のいた企業は約2割

過去 3 年間で、本人の転勤を理由に離職をした社員(単位=%)

過去3年間に、本人の転勤を理由に離職した社員がいたか質問したところ、「いた」は男性が20.7%、女性が7.9%という結果がでました。男性の方が女性より1割以上高くなっています。

1/3以上の企業で、配偶者の転勤を理由とした退職が発生

過去 3 年間での配偶者の転勤を理由に退職した正社員の有無(単位=%)

過去3年間で、配偶者の転勤を理由に退職した正社員がいるか質問したところ、「いる」が33.8%、「いない」が61.1%という結果がでました。
 

「いる」とする割合は、従業員数が多い企業ほど高く、また女性正社員の比率が高くなるほど高くなることがわかりました。

まとめ

今回のアンケート結果を見ると、企業側は人材育成のために「転勤」の効果が高いと考え、従業員側も転勤によって能力が上がったと回答する人が多いことがわかりました。
 

一方で、転勤によって離職する人が一定数いる事が明るみになりました。転勤による離職は、本人の転勤による場合もありますが、配偶者の転勤による離職も多いことがわかります。
 

これからの日本では、結婚や出産、育児だけでなく、介護を理由として転勤が困難な人が増えていく可能性が高いです。企業側は、勤務地限定方社員制度やリモート勤務制度など、ダイバーシティに対応できる制度を導入することで、転勤が人材確保・定着の制約にならない努力が必要になると考えられます。
 

出典

 

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