労働時間の「正しい把握」とは?

執筆: 『人事労務の基礎知識』編集部 |

労働時間の正しい把握

電通をはじめ、名だたる大企業の長時間残業の問題が明るみに出て、社会問題化しています。

そんな背景を下に、厚生労働省は2017年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を公開しました。このガイドラインは、労働時間管理のための具体的な指針として活用される事が期待されています。

そもそも使用者(会社側)は労働基準法の定めにより、従業員の労働時間(勤務時間)の管理を適正に行う責務があります。そして適正に管理された労働時間に対応して、割増賃金を不足無く支給し、定められた以上の長時間労働(残業)を防止する必要があります。

今回は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」のポイントを解説します。

労働時間の「自己申告制」が問題視されている

労基署が監督指導した約1万事業所(※2016年度前半調査)では、労働時間の管理は以下の方法が採用されていました。

  1. 自己申告制:3,573事業所(30.4%)
  2. タイムカードを基礎:3,206事業所(27.3%)
  3. その他の方法(例えば、出勤簿):1,973事業所(16.8%)
  4. IC カード/ID カード:1,751事業所(14.9%)
  5. 使用者が自ら現認:1,234事業所(10.5%)

労基署が目をつけた事業所では、使用者による労働時間の現認方式が少なく、自己申告制が多い傾向があります。自己申告制とは、従業員が自分で労働時間を申告する労働時間管理方法のことを言います。

「自己申告制」の場合に注意すべきポイント

基本的に、労働者の勤務時間は、使用者(もしくは上司等)によって、その内容をチェックされる必要があります。また、記録は客観的に残す必要があり、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの利用を求められています。

タイムカードやICカードを利用せず、自己申告制で行う場合に使用者(経営者)は、以下の措置を講ずる必要があるとされています。

  • 労働時間の実態を正しく記録し適正に自己申告するよう、従業員にきちんと説明する
  • 上司等が、自己申告制の運用について、正しく理解できるようきちんと説明する
  • 自己申告された内容を、必要に応じて調査し、著しい乖離がある場合は労働時間を補正する
  • 自己申告の時間を超過して事業場にいる場合、使用者の指示による業務でなかったか確認する。確認結果が自己申告と異なる場合は補正する
  • 自己申告の際に、時間外労働の時間数に上限を決めるなど、労働時間の適正な申告を妨げることはしない
  • 正しい自己申告を妨げる「時間外労働時間の削減のための社内通達」「時間外労働手当の定額払」等が無いか確認し、必要に応じて改善すること
  • 36協定で定めた時間外労働を超過しているのに、記録上は超過させずに(記録を改ざんし)管理するようなことが慣習的に行われていないか確認する

「自己申告制」の運用以外で注意すべきポイント

「労働時間」の考え方

労働時間とは、使用者(上司)の指揮命令下に置かれていた時間です。具体的に下記の時間も労働時間とみなされます。

  • ユニフォーム等の着替え時間
  • 作業後の後片付け・掃除の時間
  • 指示待ち中で、いつでも稼働できるよう待機している時間
  • 義務や指示に従って参加した研修・教育訓練・学習の時間

賃金や労働時間に関する書類の作成・保存についての注意事項

  • 賃金台帳には、労働日数/時間数/残業時間数など、労働基準法108条や施行規則第54条で定められた記入事項を正しく記入する必要があります。不正があった場合、罰金に処されます。
  • 法定3帳簿(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿)だけでなく、出勤簿やタイムカードなど労働時間を記録した書類は、3年間保存する必要があります(労働基準法第109条)。

まとめ

安倍政権による「働き方改革」推進の影響もあり、労働基準法で定めれた労働時間の適切な管理の重要性が日に日に高まっています。割増賃金の未払いや、過剰な長時間労働といった問題を抱えた企業は、早期に問題解決することが求められています。

 

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参考)厚生労働省『[PDF]労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン