フレックスタイム制と裁量労働制の限界点(第1回/全3回)
執筆: 有馬美帆 | |
連載企画として、「スタートアップの労働法」をテーマに、社労士シグナル事務所の有馬美帆さん(特定社会保険労務士)にお話を伺っていきます。
今回は、全三回構成の第一回目のスタートとして、働き方の自由度を高めるために採用されやすい「フレックスタイム制」とITスタートアップではエンジニア職によく使われがちな「裁量労働制」の限界点の中で、スタートアップの動向・要因とそれぞれのメリットについてお送りいたします。
フレックスタイム制や裁量労働制を利用するスタートアップの動向
Q|最近のスタートアップでは、裁量労働制やフレックスタイムを導入している傾向があると思うのですが、その要因はどこにあると思いますか?
一例として挙げられる夜型エンジニアに代表されるように、働く時間にとらわれない考え方をする方も多く、従来の定時勤務による働き方ではない自由な働き方を目指す企業も多くなってきています。また、適正な労働時間管理は必要不可欠ながら、残業時間の増加とそれに伴う残業代の増加もあり、不要な部分があればコストを下げたいという経営者としての立場での思いもあります。
スタートアップの特徴としてまず考えられるのは、社長がメンバーに細かい指示を出すのではなく、各メンバーが大きな裁量をもって仕事をすること。
つまり個々人が責任を持つというスタンスの少数精鋭のチームであり、そのような組織には、時間管理をある程度従業員に任せることが出来る『裁量労働制』が適合し、同時に働く時間に裁量を希望する労働者とコスト懸念がある経営者、その双方にとっても強いニーズがあるということなのです。
Q|裁量労働制はスタートアップに向いている制度と言えますね!
ただし、ここで気を付けなければいけないことがあります。
それは、対象業務が法律で限定され、さらに従業員がやっている業務によっては適用できない場合もあるということ。
そのような場合でも、従業員の自由な働き方をなるべく維持したいという多くの企業が採用している方法があります。
それが、業務による制約がない『フレックスタイム制』です。裁量労働制と違ってどんな業務であろうと適用できる、ということですね。
(写真:特定社会保険労務士 有馬氏)
フレックスタイム制と裁量労働制のメリットまとめ
Q|各制度のメリットをまとめて教えてください!
フレックスタイム制のメリット
1 残業時間の計算がシンプルでわかりやすい
月単位(清算期間単位)での時間外手当支給が出来るという特徴があるため、月の労働時間総枠で時間外手当を計算することになります。つまり残業時間の計算がとてもシンプルですので、比較的導入しやすいということになるわけです。
2 業種に関わらず適用が検討出来る
適用できる対象業務の限定はないので、どんな業種であっても適用を検討することが出来ます。
裁量労働制のメリット
1 成果に応じた給与を支給できることも
要件をクリアすれば時間外手当の支給が不要となる場合もあり、事業主として成果や成果物に応じた給与を支給することも可能となる場合があります。
フレックスタイム制、裁量労働制の両方に共通しているメリット
1 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が実現しやすい
育児や介護との両立を目指す従業員が時間を組み立てて仕事に携わることによって、従業員自身の個別の予定が立てやすくなるだけではなく、主体性をベースとした合理的な仕事をする意識につながることが考えられます。
また出退勤時間を自由に考えられるので、調整した時間を余暇や家族との時間にあてるなど、時間の有効利用も可能となってきます。
2 全員対象ではなく、業務ごとに対象をわけて制度をつくるなど、柔軟性がある導入が出来る
一例として、カスタマーサポートなどのコールセンターや受付などがイメージしやすいでしょう。予め時間の設定のある業務は、従来通りの定時勤務が向いているといえます。
反対に時間が流動的な業務は、フレックスタイム制や裁量労働制を取り入れる対象になり得る、というわけです。
3 一日の労働時間や業務量の不足分を別日で補うことが出来る
労働時間を自由に組み立てやすいという性質があるため、日々の業務量や労働時間に合わせたアレンジが出来るメリットも考えられます。
第一回目となる今回は、企業や労働者に幅広く注目をあびている『フレックスタイム制と裁量労働制』について、まずは、スタートアップの動向・要因と、それぞれのメリットについてお届けいたしました。
ここで大まかなイメージをもっていただき、次回は、『誤解しがちな部分・導入後のリスクチェックとコツ』など、企業の中で順応できるための様々な説明などをさせていただきます。
※今回の記事は、平成29年5月1日の法令施行分までを対象としたものです。
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